日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

書評:臨床放射線生物学の基礎 原著第4版

論文標題
著者 Michael Joiner, Albert van der Kogel 監訳 安藤興一、中野隆史
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
2013年 発刊 放射線医療国際協力推進機構
キーワード

 放射線生物学は今日の癌治療、癌の生物学の理解において欠かすことの出来ない学問分野であるが、この分野のテキストは数少ない。そのようななか、本書は貴重な一冊と言える。
 本原著は1993年に初版がGordon G. Steel博士により出版され、以降改訂3版まで進み、2009年に編者がMichael Joiner及びAlbert van der Kogel博士に替わると共に大幅に改訂された第4版として出版された。放射線治療にたずさわる医師、医学物理士、放射線生物学者、学生のためのヨーロッパ放射線腫瘍学会(the European Society for Therapeutic Radiology and Oncology:ESTRO)教育プログラムテキストとして用いられており、放射線生物学の基礎から、最新の治療法・腫瘍学までを含み、その内容には定評がある。今回、群馬大学腫瘍放射線教室のメンバーにより日本語翻訳がされて、翻訳版が出版されることとなった。
 本書は全25章よりなり、放射線生物学と放射線治療、最新の腫瘍学が含まれている。まず放射線照射によるDNA損傷、細胞死のメカニズム、その定量化の方法について論じられる(1〜4章)。線量効果関係、LET、RBEについて論じた後に(5〜6章)、腫瘍の反応、LQモデル、線量分割、正常組織反応など、放射線治療の臨床を説明する要素が述べられる(7〜14章)。各章は図表や写真、臓器や疾患別の具体例に富み、理解を助けている。以降の章では、低酸素(15〜17章)、化学放射線治療(18章)、再照射(19章)、画像誘導放射線治療(20章)、分子標的(21〜23章)、粒子線治療(24章)、2次がん(25章)について、数多くの文献を引用して述べられている。いずれも放射線生物・放射線治療の重要なトピックである。これらは基礎的な放射線生物学にとどまらず、臨床現場で放射線治療法を選択する理論的基礎を与えてくれるという点で、極めて有意義である。
 本書では放射線生物学に関わる実験や記述について、いずれも明快に訳されており、訳語の統一もなされている。放射線生物学、放射線治療の分野で最高の日本語テキストの一冊であろう。若手医師や研究者、学生はいうに及ばず、ベテランの放射線科医や癌治療医の方々にも是非お勧めしたい。

文責:東京医科歯科大学 口腔放射線腫瘍学 教授 三浦雅彦