日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

低酸素腫瘍細胞由来の細胞外小胞カーゴ分子miR-152-3pはKLF15タンパク質を介して子宮頸がんの放射線抵抗性を促進する

論文標題 Hypoxic tumor cell-derived small extracellular vesicle miR-152-3p promotes cervical cancer radioresistance through KLF15 protein
著者 Zhou J, Lei N, Tian W, Guo R, Gao F, Fu H, Zhang J, Dong S, Chen M, Ma Q, Li Y, Chang L
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Radiat Oncol, 18: 183, 2023
キーワード Cervical cancer(子宮頸がん) , Radioresistance(放射線抵抗性) , Hypoxia(低酸素) , Extracellular vesicle(細胞外小胞) , miR-152-3p

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【背景・目的】
子宮頸がん(Cervical Cancer; CC)は世界的に見ても罹患率が高く、年間約60万人の女性が罹患し、うち約半数が子宮頸がんによる死亡と推定されている。わが国では、子宮がん検診の推進により早期発見が可能となり、その死亡率は減少傾向にあるが、依然として20代から30代で発症するがんの第一位を占めている。CCの治療には、放射線療法などの様々な治療戦略が適用されるものの、放射線への耐性が放射線療法の有効性を制限する主な要因の一つとなっている。著者らは、がん細胞を取り巻く低酸素環境と細胞間コミュニケーションツールとして機能する細胞外小胞(Extracellular Vesicles; EVs)との関連に着目して、放射線耐性の根底にあるメカニズムについて議論している。

【結果】
37℃、5% CO2の正常酸素環境下(Normoxia Environment; NE)または37℃、1% O2、5% CO2、94% N2の低酸素環境下(Hypoxia Environment; HE)でCC細胞株(SiHa、HeLa)を48時間培養し、その培地を2,000×gで20分間遠心して細胞を除去、上清を再度10,000×gで45分間遠心して細胞残骸を除去、その上清をさらに100,000×gで80分間遠心しEVsを単離した。ナノ粒子トラッキング解析および透過型電子顕微鏡下の観察では、両環境下の培養上清から回収したEVsの平均直径および形態には変化はみられなかったものの、NE-EVsと比較してHE-EVsの濃度およびカーゴ分子(タンパク質およびRNA)総量が増加していた。CC細胞株とHE-EVsを24時間共培養させ6 MVのX線4 Gyをばく露すると、アポトーシスの割合およびリン酸化ヒストンH2AX(γ-H2AX)によるフォーカス形成は有意に低下し、HE-EVs濃度を増やすにつれてその効果は顕著に現れた。さらに腫瘍異種移植(5週齢の雌BALB/cヌードマウスの右下腹部に2,000,000個のHeLa細胞を皮下注射し、腫瘍体積が50 mm^3に達した時に10 μg/50 μL EVを1日1回の5日間腫瘍組織に注射、さらにEV注射の2日目から4日間4 Gy/日の線量で腫瘍に局所照射した)マウスモデルでは、NE-EVsと比較してHE-EVs注射群の腫瘍体積が有意に増加し、細胞増殖マーカーKi67の発現増加およびTUNEL陽性死細胞の減少が認められた。これらの結果は、低酸素腫瘍細胞由来のEVsがCCの放射線誘発細胞損傷を軽減し、放射線耐性を強化することを示している。
CC組織におけるmiR-152-3pの上方制御がNCBIデータベースから判明し、実際にHE-EVsにおけるmiR-152-3pの高発現が明らかとなった。CCの放射線感受性に対するmiR-152-3pの関与を調べるためにmiR-152-3p模倣体をCC細胞株に導入したところ、miR-152-3p過剰発現でX線ばく露によるアポトーシスおよびγ-H2AXが有意に低下した。さらに腫瘍異種移植マウスモデルへのmiR-152-3p模倣体の注射により、X線ばく露単独と比較して腫瘍体積が有意に増加し、Ki67の発現増加およびTUNEL陽性細胞の減少が認められた。
続いて、5 μg/mL RNaseを用いてEVs外部の残留RNAを破壊するとHE-EVsにおけるmiR-152-3pの発現は依然として高く、さらに0.1% Triton X-100を追加してEVsを破壊するとHE-EVsにおけるmiR-152-3pの発現はベースラインに戻ったことから、miR-152-3pがCC由来のHE-EVsに包まれて役割を果たすことが示唆された。CC細胞株にsh-miR-152-3pを導入しHE-EVs miR-152-3pを抑制すると、X線ばく露後の細胞生存率および浸潤能力が低下し、アポトーシスおよびγ-H2AXが有意に増加した。これらの結果から、miR-152-3pがHE-EVsの重要なカーゴ分子であることが示された。
TCGAデータベースからmiR-152-3pの下流標的としてKruppel-like factor(KLF)ファミリーが候補に挙がり、その中でも隣接組織と比較してCC組織におけるKLF15の発現が低く、miR-152-3pを強く発現しているCC細胞株においてもKLF15は低発現を示していた。腫瘍異種移植マウスモデルへのmiR-152-3p模倣体の注射でも、腫瘍組織におけるKLF15陽性細胞数が有意に低下していた。さらに、ダブルルシフェラーゼレポーターアッセイでは、CC細胞株におけるKLF15の活性がmiR-152-3p模倣体により制限された。また、レンチウイルスベクターによりKLF15をサイレンシングするとX線ばく露後のアポトーシスおよびγ-H2AXが有意に低下し、逆にKLF15の過剰発現はmiR-152-3pによるアポトーシスおよびγ-H2AXの抑制をベースラインに戻したことから、KLF15が腫瘍抑制因子であり、miR-152-3pがKLF15を直接標的とすることで放射線耐性を促していると考えられる。
最後に、放射線療法後にCCを再発もしくは再発しなかった患者それぞれ20名の血液を調べてみると、放射線療法後3年以内にCCを再発した患者の血漿EVsにはmiR-152-3pが高く発現しており、同時にKLF15の発現が有意に低いことが示された。さらに、これらの患者のCC組織におけるKLF15メッセンジャーRNAの発現が血清EVs miR-152-3pレベルと負の相関を示しており(R^2=0.614)、miR-152-3p発現レベルが低い患者では全生存期間が良好であった。EVs miR-152-3pおよびKLF15メッセンジャーRNAの両マーカーがCCの放射線耐性の予測に応用できる可能性を示唆した。

【まとめ】
本論文では、低酸素環境下の細胞が放出したEVsは包含するmiR-152-3pを介してCCの放射線耐性を強化しており、下流標的としてKLF15が関与していた。さらに、EVs miR-152-3pの増加とKLF15の減少が、放射線療法後のCCの予後予測に有用であることが示された。この発見が、CCの放射線耐性を克服する新しい治療戦略の開発に役立つことが期待される。