日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

CREB/ATF転写因子OASISを介した細胞周期停止によるp53非依存的腫瘍抑制作用

論文標題 p53-independent tumor suppression by cell-cycle arrest via CREB/ATF transcription factor OASIS
著者 Saito A, Kamikawa Y, Ito T, Matsuhisa K, Kaneko M, Okamoto T, Yoshimaru T, Matsushita Y, Katagiri T, Imaizumi K
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Cell Rep, 42(5): 112479, 2023
キーワード OASIS , astrocyte , cell cycle regulation , p21 , tumor supression

► 論文リンク

【背景・目的】
Old astrocyte specifically induced substance(OASIS)は、Creb3l1によってコードされる小胞体常在の膜貫通型転写因子である。OASISは小胞体ストレスに応答して、RIP (regulated intramembrane proteolysis:制御された膜内部でのタンパク質分解)によって切断され、bZIP型DNA結合ドメインを含むN末端断片が生成されることで転写因子として働く。OASISがアストロサイトや骨芽細胞などの特定の細胞で選択的に発現して分化を制御すること、複製ストレスの誘導によって細胞周期を停止したまま長期培養されたアストロサイトにおいてOASISのmRNA発現が増加していることがこれまでに明らかにされている。本論文では、細胞周期停止に関与するp53との関連など、OASISの細胞周期制御に関わる役割について検討している。

【結果の概要】
1. OASISは長期培養およびDNA損傷を受けたアストロサイトの細胞周期をG2/M期で停止させる
長期培養アストロサイトおよびドキソルビシン処理をしたアストロサイトではG2/M期細胞の割合が増加することをフローサイトメトリーで確認した。長期培養アストロサイトおよびドキソルビシン処理細胞で小胞体ストレスマーカーが増加したことから、小胞体ストレスで活性化したOASISがG2/M期で細胞周期を停止させることが示唆された。また、大脳皮質にグリオーシスを誘導して細胞周期の停止を誘発した部位においてOASISとサイクリンB1の発現が増加したこと、またOASISノックアウトマウスではサイクリンB1の発現誘導が抑制されたことから、OASISがG2/M期の細胞周期制御に関与することがin vivoでも確認された。

2. OASISまたはp53を介したp21による細胞周期停止は細胞特異的に起こる
野生型またはOASISを欠損したアストロサイトでドキソルビシン処理の有無によるRNA発現解析を行い、OASISを欠損するとサイクリン依存性キナーゼ阻害因子の中でp21のみが発現が低下することを示した。DNA損傷後のアストロサイトにおいて、p21プロモーターのCRE結合部位にOASISが結合し、p21の発現誘導によってG2/M期の停止が誘導されることが確認された。p53はp21の発現を誘導する主要な因子であるが、DNA損傷を受けたアストロサイトと骨芽細胞におけるp21の発現誘導はOASISに依存していた。一方で、線維芽細胞ではp53がp21を発現誘導したことから、OASISまたはp53依存的なp21の発現誘導と細胞周期の停止に細胞特異性が示された。

3. OASISの低発現または機能喪失変異は神経膠腫の発症に関連している
The Cancer Genome Atlas Programを用いて神経膠腫および神経膠芽腫におけるOASISの解析を行い、OASISの低発現とOASISプロモーターの高度なメチル化の関連性を確認した。IDH1変異患者ではOasisプロモーター部位が高度にメチル化されて発現量が低下し、IDH1低発現患者ではOASISが低レベルで発現していた。p53ではOASISで見られた相関はなく、IDH1の機能欠損によってOASISの発現が弱まる事が示された。また、神経膠芽腫細胞株でもOasisプロモーターのメチル化とOASIS発現レベルの相関が確認された。

4. OASIS発現の回復が膠芽腫の腫瘍化を抑制する
U251MG細胞はOasisプロモーターのメチル化状態が高いためにOASIS発現レベルが低い神経膠芽腫細胞株である。U251MGに全長OASISあるいはOASISN末端側を過剰発現させてヌードマウスに移植すると、OASISによるp21発現増加とG2/M期の細胞周期停止の誘発によって腫瘍サイズの増大が抑制された。この知見から、OASISが重要な腫瘍抑制因子として働くことが示された。

【まとめ】
本論文では、細胞周期制御におけるOASISの役割に注目し、アストロサイトなどの細胞種でOASISがDNA損傷後のp21発現誘導に関与し、p53非依存的なG2/M期での細胞周期制御や腫瘍抑制効果を示すことを発見した。この知見は放射線被ばく後のアストロサイトにおける応答反応にも共通する可能性が高く、神経膠芽腫の放射線治療増感に寄与する知見となることが期待される。