新規のTOPBP1結合因子HTATSF1の同定と相同組換え修復機構への関与の解明
論文標題 | A PARylation-phosphorylation cascade promotes TOPBP1 loading and RPA-RAD51 exchange in homologous recombination |
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著者 | Zhao J, Tian S, Guo Q, Bao K, Yu G, Wang X, Shen X, Zhang J, Chen J, Yang Y, Liu L, Li X, Hao J, Yang N, Liu Z, Ai D, Yang J, Zhu Y, Yao Z, Ma S, Zhang K, Shi L |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Mol Cell, 82(14): 2571-2587, 2022 |
キーワード | DNA二本鎖切断 , 相同組換え修復 , TOPBP1 , HTATSF1 , リン酸化 |
【概要】
放射線により生じたDNA損傷を修復する分子経路のうち、相同組換え(HR)修復は、複製直後の姉妹染色分体を鋳型として修復を行う機構であり、ゲノムの安定性の維持に重要な役割を果たすだけでなく、腫瘍の発生や放射線治療に対する感受性にも密接に関係している。本論文では、HR修復に関わるTOPBP1のS期特異的な結合因子としてHTATSF1を新規に同定し、HTATSF1がTOPBP1ローディングおよびRPA-RAD51交換による相同組換え修復を促進し、ゲノム安定性維持に関わることを明らかにしたので紹介したい。
【背景】
RPAは、相同組換え修復の途中で生じる一本鎖DNAに結合することで、一本鎖DNAをヌクレアーゼから保護するだけでなく、一本鎖DNA分子内で形成される2次構造を解消する役割がある。RAD51はこの一本鎖DNAと結合して、相同なDNA領域を検索する役割を持っている。しかし、RAD51の一本鎖DNAへの結合親和性はRPAのそれと比較すると弱いことから、RAD51が一本鎖DNAに結合するためには補助因子(RAD51 mediator)が必要である。補助因子の一つであるTOPBP1は9つのBRCTドメインを持つタンパク質で、DNA修復、複製、転写などのプロセスにおいて重要な役割を担っている。最近、TOPBP1はPLK1を介したRAD51のリン酸化を促進することにより、RAD51のリクルートを促進する足場タンパク質であることが報告されたが、どのようにして損傷部位を認識し、結合するのか、その分子メカニズムは依然として不明であった。本論文では新規のTOPBP1結合因子HIV Tat-specific factor 1(HTATSF1)を同定し、相同組換え修復に関与することを明らかにしたので紹介したい。
【主要な結果】
1. TOPBP1の新規結合因子HTATSF1の同定とCasein Kinase 2によるHTATSF1のリン酸化
TOPBP1のBRCTドメインに存在するリジン残基は、リン酸化ペプチド結合に重要であり、これまでにTOPBP1はBRCTドメインのリジンを介して多くのDNA損傷修復タンパク質との結合が報告されている。
そこで、本研究ではS期における新規のTOPBP1結合因子を同定するために、まず、TOPBP1のBRCTドメイン(BRCT1.2.5.7ドメイン)のリジン残基変異体ベクターを作成し、細胞へ導入し、放射線照射に伴う細胞内でのTOPBP1集積挙動の解析を行った。その結果、TOPBP1 BRCT 2のK(リジン)250A(アラニン)は放射線照射後の損傷部位への集積が減少したことから、TOPBP1の250番目のリジンはそれ自身が損傷部位へ集積することに重要であることがわかった。
次にS-G2期の野生型 (WT)細胞とBRCT 2ドメイン(K250A)変異細胞を回収し、免疫沈降–質量分析を行い、2つの細胞でTOPBP1と結合するタンパク質を比較した結果、新規の因子としてHTATSF1がBRCT 2に依存してTOPBP1と結合することを見出した。HTATSF1はHIV-1の刺激因子として転写伸長に関わる因子として同定されたが、現在はリボソームRNAの転写産物のプロセシング因子として知られている。しかし、これまでDNA修復との関わりは報告がなかった。
TOPBP1のBRCTドメインはリン酸化されているタンパク質と親和性が高いために、HTATSFはTOPBP1と結合する際、リン酸化されている可能性が高い。そこでHTATSF1のリン酸化部位を同定するために、ドメイン解析を行ったところ、748番目のセリンのリン酸化がTOPBP1との結合に重要だということがわかった。また、リン酸化部位のモチーフ解析から748番目のセリンはCasein Kinase 2(CK2)によりリン酸化される可能性が予測されたため、CK2阻害剤を用いて放射線照射後のHTATSF1のS748のリン酸化レベルを検出したところ、予想どおり減少していた。このことから、S期において、DNA損傷特異的に、TOPBP1はセリンの748番目がリン酸化したHTATSF1と結合することが明らかになった。
2. S期におけるHTATSF1-TOPBP1の結合がRAD51-RPA交換に重要である
次にHTATSF1-TOPBP1結合が相同組換え修復に関与するかどうかを解析した。まず、HTATSF1、TOPBP1をノックダウンし、スプライシングを利用したHRレポーターシステム(splicing-based HR reporter system)により、相同組換え修復が低下することがわかった。さらに、RPA1とRAD51が相同組換え修復に重要であることから、それぞれの損傷部位への集積を免疫染色法により解析した。その結果、HTATSF1とTOPBP1ノックダウン細胞およびHTATSF1 S748A 発現細胞はRAD51の損傷部位への集積が減少していた。さらに、これらの細胞を用いたコメットアッセイ法や様々な阻害剤を用いたコロニーアッセイ法により、HTATSF1欠損細胞およびS748A発現細胞ではDNA損傷を誘発するカンプトテシン,Poly (ADP) ribose (PARP)阻害剤,放射線に対して高い感受性が確認された。これらの結果は、HTATSF1-TOPBP1の結合が、DNA修復に必要であることが示唆された。
3. ポリADPリボシル化したRPAの認識によるHTATSF1-TOPBP1の損傷部位への集積
これまでの報告からいくつかのDNA修復タンパクに含まれるRRMモチーフはポリADPリボース(PAR)を認識することが知られているため、HTATSF1に含まれるRRMがPARと結合するかどうかを検証した。HTATSF1 RRMドメイン変異体を作成し、ビオチン標識PARとのプルダウンアッセイ法により、RRM1とRRM2がPARとの結合に必要なモチーフであることを明らかにした。次にHTATSF1-TOPBP1がRPA、RAD51の上流で機能することから筆者らはHTATSF1 RRMsドメインがポリADPリボシル化したRPAを認識していると仮説を立て、検証を行った。そのために近接ライゲーションアッセイ(PLA)を利用したRPAとHTATSF1の共局在解析、ポリADP リボシル化-プルダウンアッセイ解析を行なった。その結果、PARP阻害剤およびRRMの変異体(HTATSF1 4A)はRPAとHTATSF1の結合を阻害することから、HTASF1はRRMを介してPAR化したRPAと結合することが示唆された。
以上の結果からHTATSF1-TOPBP1複合体は、DNA修復においてHR修復過程で生じる一本鎖DNAに結合したPAR-RPAを認識することで、損傷部位への集積し、DNA修復を促進することが明らかとなった。
【まとめ】
本論文によって、新規の相同組換え修復因子としてHTATSF1が同定され、その機能経路が明らかとなった。これまでのDNA修復の分子経路の知見に新な因子が加わったことにより、その制御機構はますます複雑になった感がある。しかし、現在多くの研究グループにより行われている様々なDNA修復阻害剤を組み合わせた癌治療法の開発に今回の新規因子の阻害剤が加わることで、より効果的な抗がん剤の開発が期待される。