骨髄マクロファージにおけるPiezo1チャネルを介した機械刺激の感知は照射後の血管微小環境傷害の回復を促進する
論文標題 | Piezo1-mediated mechanosensation in bone marrow macrophages promotes vascular niche regeneration after irradiation injury |
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著者 | Zhang X, Hou L, Li F, Zhang W, Wu C, Xiang L, Li J, Zhou L, Wang X, Xiang Y, Xiao Y, Li SC, Chen L, Ran Q, Li Z |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Theranostics, 12(4): 1621-1638, 2022 |
キーワード | Piezo1 , mechanosensation , hematopoiesis , VEGF-A , HIF-1α |
【背景・目的】
放射線照射または化学療法後の造血細胞移植は、白血病やその他の悪性疾患の主な治療法である。しかし、放射線照射または化学療法は、造血幹細胞ニッチを含む局所微小環境を破壊し、これは造血器官の回復の遅延につながる。造血幹細胞ニッチは、間質細胞、内皮細胞、および造血幹細胞の分化後である常在骨髄マクロファージを含む骨髄間質成分で構成される。造血幹細胞ニッチは、骨髄における 造血幹細胞の自己複製と分化を制御している。
造血幹細胞は多くの場合、血管ニッチに広く分布している。約80%は、骨髄内の毛細血管や細静脈に代わる血液の通過のための管状空間である類洞の近くに存在している。化学療法または放射線照射によって引き起こされる骨髄類洞内皮の損傷は、類洞血管構造の損傷を伴う。しかし血管内皮/前駆細胞との相互作用により類洞血管構造が回復され、造血器官の回復が可能になる。類洞の修復は骨髄造血器官の回復にとって重要なステップである。血管内皮増殖因子A (VEGF-A)/VEGF受容体2 (VEGFR2)のシグナル伝達を阻害すると、類洞血管構造の回復が損なわれ、造血器官の回復が妨げられる。
研究により、マクロファージは組織修復に必要な血管修復および血管新生のプロセスにおいて重要な役割を果たしていることが示されている。しかしマクロファージが造血器官の回復や骨髄類洞の再生にどのような役割を果たしているかはまだ不明である。
【主な結果】
1. 照射後の骨髄マクロファージの維持と活性化
照射後の造血器官の回復における骨髄マクロファージの役割を検討するためにC57BL/6マウスに放射線を照射し、造血器官損傷モデルを作成した。照射後3日目までに骨髄細胞は大きく減少し、7日目までに回復した。同様に骨髄マクロファージも減少したが、興味深いことに骨髄細胞全体における骨髄マクロファージの割合は非照射群と比較して増加し、その後7日目には元のレベルとなった。これらの結果は、骨髄マクロファージが他の骨髄細胞よりも放射線に耐性が高く、放射線障害の初期段階では骨髄造血微小環境において比較的大きな細胞集団であることを示している。
2. 残存した骨髄マクロファージの枯渇は照射後の造血の回復を妨げる
骨髄マクロファージを枯渇させるために照射の1日前に尾静脈を介してクロドロン酸内包リポソームを投与した。クロドロン酸内包リポソームにより骨髄マクロファージの枯渇は照射後7日目まで確認された。照射後の骨髄マクロファージの枯渇の影響を検討したところ、照射7日後の造血幹細胞の割合はクロドロン酸内包リポソームを投与した群で対照群よりも少なく、造血器官の回復の遅延が引き起こされた。さらにクロドロン酸内包リポソームを投与した群では照射後の生存率も大きく低下し、体重の減少も増強された。これらの結果より照射後に残存した骨髄マクロファージが照射後の造血器官の回復に重要な役割を果たしていることが示された。
3. 残存した骨髄マクロファージは、照射後にVEGF-Aを分泌することにより、類洞再生において重要な役割を果たす
蛍光免疫染色により照射24時間後には骨髄内の類洞の拡張と損傷が示され、3日目にはその回復が引き起こされていることが分かった。クロドロン酸内包リポソームを投与した群では照射による骨髄類洞の拡張の回復が遅延していることが示された、一方で類洞細胞ではリポソームの取り込みやクロドロン酸内包リポソーム投与単独の構造の変化は見られなかった。またクロドロン酸内包リポソーム投与による照射後の類洞細胞の回復遅延のメカニズムとして、骨髄マクロファージ枯渇によるVEGF-A分泌の減少が示された。
4. Piezo1チャネルによる機械刺激の感知は照射後に残存した骨髄マクロファージにおけるVEGF-A分泌の上方制御を媒介する
照射後の骨髄マクロファージからのVEGF-Aの産生メカニズムを検討するためにトランスクリプトソーム解析を行ったところ、機械刺激の感知や細胞内カルシウムイオンの正の制御の関与などが示された。また照射後において骨髄マクロファージの核面積や細胞面積の伸長が免疫染色によって観察された。
そこで照射後の骨髄マクロファージにおける機械刺激を感知するタンパク質の変化を検討したところ、Piezo1チャネルが遺伝子、タンパク質ともに増加していた。さらにPiezo1の特異的アゴニストYoda1は骨髄マクロファージにおいてVEGF-Aの発現を増加させた。このメカニズムとしてNFAT経路を介したHIF-1αの蓄積が示された。
【まとめ】
本紹介論文では、放射線が残存した骨髄マクロファージを活性化し、Piezo1チャネルを媒介した機械感覚の感知がVEGF-Aを上方制御し、類洞細胞の回復と造血幹細胞ニッチの回復を促進することを示した。この研究は、造血幹細胞ニッチにおいてPiezo1チャネルを介した機械刺激の感知が骨髄マクロファージを活性化すること、またこの機械刺激を介して活性化した骨髄マクロファージによる造血器官の恒常性維持を明らかにした。