免疫応答を誘導する寡分割照射はMDSC依存的に頭頸部扁平上皮癌の抗PD-L1療法への感受性を高める
論文標題 | Immunogenic hypofractionated radiotherapy sensitising head and neck squamous cell carcinoma to anti-PD-L1 therapy in MDSC-dependent manner |
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著者 | Mao L, Zhou JJ, Xiao Y, Yang QC, Yang SC, Wang S, Wu ZZ, Xiong HG, Yu HJ, Sun ZJ |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Brit J Cancer, 128: 2126-2139, 2023 |
キーワード | 頭頸部扁平上皮癌 , PD-L1 , immunogenic cell death , myeloid-derived suppressive cells |
【背景・目的】
癌細胞で発現が高い免疫チェックポイント分子programmed death-ligand 1(PD-L1)を標的とする抗PD-L1療法は、腫瘍免疫の抑制を解除し、T細胞活性を高める癌免疫療法の一つである。しかし、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)では単独での奏功率が低い場合もあり、放射線治療(RT)や化学療法との併用も進んでいる。RTにより免疫学的細胞死(ICD)が誘導されると、calreticulin(CRT)やhigh-mobility group box1(HMGB1)といったダメージ関連分子パターンが腫瘍細胞から放出され、抗原提示を促進する一方、腫瘍内への制御性T細胞(Treg)や骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の浸潤が誘導され、免疫抑制を引き起こすことが知られている。臨床試験において標準分割RTと抗PD-L1療法の併用は有害事象の増加に対し、有意な予後改善を示さない結果が報告されている。このため、高線量単回RTや寡分割RTが免疫反応のバランスを調整し、抗PD-L1療法への感受性を高める可能性が議論されている。本論文では、マウス由来扁平上皮癌細胞株であるSCC7細胞および4MOSC2細胞を用い、高線量単回RTあるいは寡分割RTによるICD誘導と腫瘍微小環境の変化が、抗PD-L1療法の抵抗性を克服するかを検証した。
【結果】
SCC7および4MOSC2細胞を移植した、免疫原性マウスモデルでは、抗PD-L1療法単独では腫瘍抑制効果が認められず、これらの腫瘍は抗PD-L1療法に対して抵抗性を示した。一方、RTは線量依存的に腫瘍細胞の生存率を減少させ、ICDマーカー(CRTおよびHMGB1)の発現を増加させた。RT後に腫瘍細胞およびMDSCにおけるPD-L1発現が上昇することが確認され、RTが腫瘍細胞のフェノタイプを変化させる可能性が示唆された。
C3H/HeNマウスにSCC7細胞を移植後、20 Gy単回RTまたは27 Gy/3回寡分割RTと抗PD-L1療法を併用すると、抗PD-L1単独群と比較して腫瘍増殖が有意に抑制された。寡分割RT併用群では、腫瘍内の樹状細胞の割合が増加し、CD8陽性T細胞の活性化が認められた一方、疲弊T細胞の割合が減少した。また、併用療法群では再移植腫瘍の増殖も抑制され、免疫記憶の形成が確認された。さらに、進行腫瘍に対して寡分割RT and/or 抗PD-L1療法を行うと、RT単独と比較して、併用群では有意な腫瘍縮小が観察された。寡分割RTによりMDSCにおけるPD-L1発現や腫瘍細胞におけるCRTおよびHMGB1の発現が上昇している点からも、寡分割RTはICDを誘導し、PD-L1陽性MDSCを増加させることで抗PD-L1療法の有効性を高めることが示唆された。
MDSCを選択的に除去する抗Gr-1療法を用いると、寡分割RTと抗PD-L1併用療法の効果は部分的に低下し、腫瘍抑制が減弱した。この際、腫瘍内のFoxp3陽性Tregが増加し、免疫抑制性微小環境の形成が確認された。これらの結果より、MDSCが併用療法における抗腫瘍効果の重要な媒介因子であることが示唆された。
HNSCC患者由来の腫瘍サンプルを用いて、ICDマーカー(CRTおよびHMGB1)の発現量と免疫応答の関係を解析したところ、CRTおよびHMGB1の高発現群では、腫瘍内T細胞浸潤が増加し、特にCD3、CD4、CD8陽性T細胞およびメモリーT細胞の割合が高いことが確認された。さらに、CRTおよびHMGB1の両方が高発現している患者群では予後が良好であり、CRTとHMGB1の発現量が腫瘍免疫応答および臨床転帰と関連することが示唆された。
【考察・まとめ】
本論文では、免疫療法抵抗性HNSCCモデルにおいて、寡分割RTがICDを誘導し、PD-L1陽性MDSCを介して抗PD-L1療法の効果を高めることが示された。特に、寡分割RTにより腫瘍微小環境が免疫賦活型へ変化し、免疫記憶形成に寄与することが明らかになった。また、MDSCが併用療法の効果に重要な役割を果たす一方で、その欠如は免疫抑制性微小環境を形成し、抗腫瘍効果を低下させる可能性が示された。よって、PD-L1陽性MDSCがHNSCCにおける放射線免疫療法のバイオマーカーになり得ることが示唆された。
これらの結果は、寡分割RTと抗PD-L1療法の併用がHNSCC治療における革新的な戦略となり得ることを強調しており、今後の臨床応用への期待が高まる。