サイクリンF-EXO1の軸が、細胞周期に依存したDNA二本鎖切断の修復を制御する
論文標題 | Cyclin F-EXO1 axis controls cell cycle-dependent execution of double-strand break repair |
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著者 | Yang H, Fouad S, Smith P, Bae EY, Ji Y, Lan X, Van Ess A, Buffa FM, Fischer R, Vendrell I, Kessler BM, D'Angiolella V |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Sci Adv, 10(32): eado0636, 2024 |
キーワード | DNA二本鎖切断修復 , ユビキチン化 , サイクリンF , EXO1 |
【背景・目的】
放射線はDNA二本鎖切断(DSB)を引き起こす。DSBは細胞にとって非常に重篤な損傷であり、適切に修復されない場合、遺伝的不安定性を引き起こし、がんを含む多くの疾患の原因となる。細胞は相同組換え(HR)と非相同末端結合(NHEJ)という二つの主要なDSBの修復メカニズムを利用する。これまでの研究から、ユビキチン化はDNA損傷修復因子のリクルート、シグナル伝達、およびDNA修復経路の時間的制御を調節することが判明している。HRとNHEJはいくつかのユビキチン依存的な機構によってその役割が制御されている。また、HRとNHEJが機能しない場合のバックアップ機構として、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)と一本鎖DNAアニーリング(SSA)が存在する。しかし、これらのDSB修復経路の選択を調節するユビキチン化の役割については、主要なメカニズムがまだ不明で、十分に研究されていない。本論文では放射線照射後の細胞生存に重要なユビキチン化因子に焦点を当てたCRISPRスクリーニングを実施し、これまで明らかになっていないDSB修復機構を解明することを目的とする。なお、本論文では、神経膠芽腫(GBM)の細胞を主に使用している。これは、GBM細胞が放射線に対する抵抗性が高く、放射線耐性をもたらす主要な経路を特定することを目的とする。
【主な結果】
1. CRISPRスクリーニングを用いた、放射線照射後の細胞生存に必要なユビキチン化関連因子の同定
GBM細胞株であるLN229に、放射線を照射後に、CRISPRスクリーニングを実施した。その結果、放射線に対して感受性を示す遺伝子として、UBE4A、RNF168、RNF8などの因子がヒットした。これらの遺伝子はDNA損傷応答および修復に重要な役割を持っていることが知られている。これらのこれまで報告されていた因子に加えて、SCF E3複合体の中心的なコンポーネントタンパク質であるCUL1や、SCFの基質受容体として機能するいくつかのF-boxタンパク質もヒットした。スクリーニングから特定されたSCF遺伝子の中で、サイクリンFはすべてのF-boxアダプターの中で最も高いランクだった。実際に、サイクリンFノックアウト(CCNF K/O)HeLa細胞では、放射線に対して高い感受性を示した。また、CCNF K/O細胞は、放射線照射後のDSB修復の遅延が見られた。
2. サイクリンFはEXO1と相互作用し、ユビキチン化を促進する
質量分析を用いて、サイクリンFがEXO1と相互作用することを明らかにした。CCNF K/O細胞細胞では、EXO1の分解が阻害されたことから、サイクリンFはEXO1のポリユビキチンを介したプロテアソームによるタンパク質分解に関わることを明らかにした。
3. サイクリンFの欠損によりEXO1の蓄積が放射線に対する感受性を高める
サイクリンFの欠損が放射線に対して感受性をどのように高めるかを調べた。その結果、サイクリンFの欠損では高い感受性を示すが、サイクリンFとEXO1を同時に欠損させると、放射線に対して感受性を示さなくなった。この結果から、サイクリンFの欠損がもたらす放射線感受性の増加がEXO1の蓄積によるものであることが確認された。
4. CDK1/サイクリンA によるEXO1のリン酸化とサイクリンFによるタンパク分解機構
サイクリンFとEXO1がどのようなメカニズムによって相互作用するかを明らかにするために、まず、EXO1のどこの領域がサイクリンFと相互作用するかを生化学的に調べた。その結果、EXO1のC末端領域がサイクリンFとの相互作用に重要であることが分かった。この領域には、サイクリンFの基質として知られているRRM2のdegron配列と類似する配列が見つかった。EXO1のT824残基はRRM2のT33と似ている。RRM2のT33は以前にサイクリンFの結合を開始するプライミングリン酸化部位として同定されていた。また、EXO1の842から846にかけてのRxIFQモチーフはRRM2の49から53残基に相当する。実際、T824をアラニンに置換したEXO1変異タンパク質と、842-845残基を欠いたEXO1の両方が、サイクリンFと結合できなかった。また、T824がCDK1/サイクリンAによってリン酸化を受けることで、サイクリンFと結合できることを示した。さらに、G2/M移行時に、サイクリンA/CDK1がEXO1のT824をリン酸化し、サイクリンFがEXO1の分解を誘発することを明らかにした。
5. EXO1-R842Aを発現した細胞は放射線照射後に過剰なリセクションを引き起こす
がんゲノムアトラスにおいて、EXO1のR842の点変異は神経膠芽腫患者で見つかっている。このR842A変異を持つEXO1タンパク質はサイクリンFによる分解を受けないことが確認された。また、EXO1-野生型およびEXO1- R842Aを発現させたLN229細胞の放射線感受性を調べた結果、EXO1-R842Aを発現する細胞はEXO1-野生型を発現する細胞と比較して放射線に対して著しく高い感受性を示した。このことから、細胞内ではEXO1- R842Aは適切に分解されないことによって、DNA修復の異常が起きていると推測された。EXO1はDSB修復においてリセクション反応に寄与することが知られているため、EXO1-野生型およびEXO1-R842Aを発現させたLN229細胞に放射線を照射し、リセクションを評価した。その結果、EXO1-R842Aを発現させたLN229細胞ではリセクションのレベルが高かった。また、EXO1-R842Aを発現する細胞ではUltra-Fine Bridge(UFB)の発生が顕著に高いことが示された。さらに、EXO1-R842Aを発現する細胞はEXO1-野生型を発現する細胞と比較してMMEJが低下し、SSAが上昇することが明らかになった。
【考察・まとめ】
本論文から、SCFcyclin Fを介したEXO1の分解は、過剰なDNAリセクションを防ぐことで、MMEJが適切に行われることを可能にしていることが明らかになった。しかし、筆者らは、サイクリンFノックアウト細胞およびEXO1-R842A細胞で、M期でリセクションが過剰に起きると主張しているが、そもそも、M期では染色体が凝集している状態であり、直接的証拠は限られる。したがって、これらの細胞において、M期での過剰なリセクション反応がどのように行われるのかは、今後より詳細に調べる必要があるだろう。