日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

ヒト骨髄ニッチオルガノイドによる造血障害のモデル化とその治療応用

論文標題 Human bone marrow niche organoids for disease modeling and therapeutic application in hematopoietic syndrome
著者 Park H, Yu I, Kim TJ, Jang H, Kim HB, Lee SB, Yoo K, Shim S, Choi SP, Jeong J
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Biomaterials, 327: 123744, 2025
キーワード Bone marrow , Organoids , Disease modeling , Hematopoietic syndrome

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【背景・目的】
高線量の電離性放射線による全身被ばくはAcute Radiation Syndrome(ARS)を引き起こし、特にHematopoietic ARS(H-ARS)は造血機能の破綻、免疫不全、出血等を介して致死的転帰をもたらす可能性がある。既存の造血因子製剤や間葉系幹/間質細胞を用いた治療には限界があり、動物モデルでもヒト病態を正確に再現することは困難である。こうした背景から、ヒトiPS細胞由来Human Bone Marrow Organoids(hBMOs)がヒト骨髄ニッチを模倣する生理学的モデルとして注目されている。本研究では、血管新生能と造血支持能を備えたhBMOsを構築し、H-ARSのin vitroモデルとしての妥当性と移植治療効果を検証した。放射線被ばく後の新たな造血再建戦略の可能性を示す研究であり、その概要を紹介する。

【結果】
1) 骨髄ニッチを模倣するhBMOsの構築
4段階の分化誘導プロトコルによりhBMOsを作製した。Step 1ではヒトiPS細胞をAggreWellプレート上で集合化し均一な胚様体を形成、Step 2では中胚葉誘導因子を含む培地で低酸素下培養し、中胚葉性スフェロイドへと分化させた。Step 3ではスフェロイドをハイドロゲルに包埋し、血管新生および造血支持因子を含む培地で約1週間培養した結果、管腔形成を伴う血管様構造と造血前駆細胞の出現が確認された。Step 4ではハイドロゲルから回収したスフェロイドを超低接着プレートで培養し成熟hBMOsを得た。成熟hBMOs内にはCD144陽性内皮細胞による血管ネットワークと明瞭な管腔構造が確認され、CD34陽性/CD45陽性の造血幹/前駆細胞を中心に、赤芽球系、巨核球系、骨髄系細胞など複数の造血系統が共存していた。さらに、遺伝子発現解析では血管マーカーおよび造血関連マーカーの増加が確認され、本プロトコルにより、血管ニッチと造血ニッチを併せ持つヒト骨髄様の三次元組織モデルの再現が示された。

2) hBMOs由来CD34陽性細胞の多能性検証
hBMOsから磁気分離したCD34陽性細胞の遺伝子発現解析では、未熟造血細胞の指標であるCD34やCD45、自己複製と分化に重要なc-Kitの発現が高く、hBMOs内の造血幹/前駆細胞は骨髄由来と類似した機能的特徴を維持していた。さらにコロニー形成ユニットアッセイでは多様な造血系コロニーが確認され、顆粒球・マクロファージ系、赤血球系、多能性前駆細胞へと分化できる機能的多能性が示された。

3) single-cell RNA sequencing(scRNA-seq)によるhBMOsの細胞多様性の評価
Step 1の細胞集団ではiPS細胞関連遺伝子の発現が最も高く、Step 2・3ではiPS細胞様の特徴が失われ、中胚葉、血管内皮、間葉系関連遺伝子が増加した。Step 4では特に造血幹細胞関連遺伝子の強い発現が認められ、同時に各血球分化系統の遺伝子も顕著に発現していた。さらに、間葉系クラスターは軟骨前駆細胞、骨形成前駆細胞、ペリサイト、血管平滑筋細胞に分化しており、多系統分化能を示した。血管内皮系クラスターでは、動脈内皮細胞や成熟内皮細胞が存在し、血管および動脈ニッチを形成していた。これらの結果は、hBMOsが造血幹細胞やその分化系列、主要な間葉系・内皮系細胞を含むヒト骨髄様の多細胞環境を再現し、造血支持微小環境を有するin vitroモデルとしての妥当性を強く裏付けている。

4) hBMOsを用いたH-ARSモデルの構築
hBMOsに3、6、または9 Gyの137Csγ線を照射したところ、3 Gyの照射でHematoxylin-Eosin(H&E)染色により組織構造の崩壊が確認され、TUNEL染色ではアポトーシス細胞が増加した。さらに切断型カスパーゼ3染色によりカスパーゼ依存性アポトーシス、Apoptosis-inducing factor(AIF)やBcl-2-associated death promoter(BAD)遺伝子発現増加によるミトコンドリア依存性アポトーシスの両経路の活性化が認められ、phosphorylated H2AX(γ-H2AX)染色によるDNA二本鎖切断の増加も確認された。3 Gy照射によりCD34陽性/CD45陽性造血幹/前駆細胞やCD11b陽性骨髄系細胞数が減少し、放射線誘発性造血障害を再現する in vitro H-ARSモデルとしてのhBMOsの妥当性が示された。

5) H-ARSモデルマウスにおけるhBMOs移植治療効果
8週齢免疫不全マウスにX線3 Gy全身照射し(線量率3 Gy/min)、4時間後にhBMOs(1×10^7 cells/ml)を移植したところ、50日後の生存率は70%まで改善した(未処置群では全個体が死亡)。移植後には、末梢血および骨髄内にヒト由来CD45陽性造血細胞およびCD20陽性B細胞が検出され、hBMOsの生着による部分的な造血再建が示唆された。H&E染色でも骨髄細胞性の改善が確認され、損傷した骨髄環境の再構築が示された。これらの結果は、hBMOsが放射線障害後の造血回復を促す新規細胞治療としての有効性を示している。

【まとめ】
本論文では、ヒト骨髄に類似した構造と造血機能を持つhBMOsを作製し、H-ARSのin vitroモデルとして確立した。段階的な放射線照射により造血障害を再現でき、致死線量放射線照射マウスへの移植では生存率を改善し、造血細胞の定着も確認された。これにより、放射線被ばく後の新たな造血再建治療戦略の開発への応用が期待される。