ミトコンドリアはエネルギー要求に応じて代謝機能の異なる集団を形成する
| 論文標題 | Cellular ATP demand creates metabolically distinct subpopulations of mitochondria |
|---|---|
| 著者 | Ryu KW, Fung TS, Baker DC, Saoi M, Park J, Febres-Aldana CA, Aly RG, Cui R, Sharma A, Fu Y, Jones OL, Cai X, Pasolli HA, Cross JR, Rudin CM, Thompson CB |
| 雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Nature, 635(8039): 746-754, 2024 |
| キーワード | エネルギー代謝 , ミトコンドリアダイナミクス , 酸化的リン酸化 , アミノ酸生合成 , グルタミン酸 |
【背景】
ミトコンドリアは、融合と分裂を繰り返すことでその機能を調節しており、この過程はミトコンドリアダイナミクスと呼ばれる。ミトコンドリアは呼吸によるエネルギー産生に加え、細胞増殖に不可欠な生合成要求を満たすため、多様な同化反応を担っている。具体的には、酸化的リン酸化(OXPHOS)を介したATP産生と、プロリンやオルニチンなどのアミノ酸の還元的生合成である。しかし、栄養供給が制限された環境下において、これら二つの機能がどのように両立・制御されているのかは明らかになっていない。本研究では、OXPHOSと還元的生合成がいかにして機能的に調和しているのかを検証した。
【OXPHOSとアミノ酸合成はP5CSによって結び付けられる】
まず、ミトコンドリア酵素間の機能的関連性を明らかにするため、酵素遺伝子データベースを基に、酵素間相互作用をネットワークマップとして描出し可視化するPPI(protein-protein interaction)解析を行った。その結果、P5CS(Δ1-pyrroline-5-carboxylate synthetase)が、TCA回路とアミノ酸合成の双方に機能的に関与していることが示唆された。
P5CSは、グルタミン酸をグルタミン酸セミアルデヒドへと還元する反応を触媒する酵素であり、グルタミン酸からプロリンおよびオルニチンが合成される経路の律速酵素である。一方、グルタミン酸は脱アミノ化によりα-ケトグルタル酸へと変換され、TCA回路に供給されることで、ミトコンドリア呼吸を支える重要な中間代謝産物として機能する。
このように、グルタミン酸はATP産生とアミノ酸合成のいずれの経路においても不可欠な代謝基質であり、これを基質とするP5CSは、両代謝経路を結び付ける中核的な役割を担うことが示唆された。
【アミノ酸合成はP5CSの作用によって維持される】
筆者らは、マウス胎児線維芽細胞をグルコース欠乏培地またはガラクトース培地で培養した。これらの酸化的培養条件では、OXPHOSに依存したATP産生が亢進する。この条件下ではNADH/NAD⁺比が低下し、還元的アミノ酸合成には不利な代謝環境となる。しかし、このような条件下においても細胞内プロリン量は維持されており、さらにグルタミン酸のTCA回路への流入が増加する一方で、還元的アミノ酸合成経路への流入も保持されていた。
次にP5CSをノックアウトすると、細胞内プロリン量は著しく低下した。さらに、プロリン欠乏条件下では細胞増殖が阻害された。一方、P5CS遺伝子を再導入するとプロリン量は回復し、プロリン欠乏条件下においても細胞増殖が維持された。
以上の結果から、還元反応に不利な酸化的条件下においてもアミノ酸合成は維持されており、細胞増殖に必要なプロリン合成にはP5CSの機能が不可欠であることが示唆された。
【P5CSはフィラメント形成を介してアミノ酸合成を維持する】
続いて筆者らは、細胞増殖が静止状態にある細胞と、増殖が活発な細胞におけるP5CSの細胞内局在を、蛍光免疫染色により解析した。静止細胞では、P5CSはミトコンドリアマトリックス内に点状に均一分布していた。一方、増殖細胞では、ガラクトース培地条件下においてP5CSがフィラメント状構造を形成し、一部のミトコンドリアに選択的に局在しており、それらのミトコンドリアのマトリックス内に存在していた。さらに、静止細胞に血清を添加して増殖を誘導すると、点状に分散していたP5CSが集簇し、経時的にフィラメントを形成する過程が観察された。
次に、2種類のP5CS変異体を発現させ、細胞内プロリン量を測定した。システインをアラニンに置換した変異体であるC612Aは触媒活性を欠くものの、野生型P5CSと重合可能である。一方、アルギニンをトリプトファンに置換した変異体であるR138Wは触媒活性を保持しているが、野生型P5CSとフィラメントを形成できない。その結果、C612Aの発現は内因性P5CSによるプロリン合成に影響を与えず、プロリン量は維持された。一方、R138Wの発現は内因性P5CSのフィラメント形成を阻害し、細胞内プロリン量は著しく低下した。
以上の結果から、代謝活性および栄養要求性の高い細胞では、P5CSがフィラメントを形成することにより、アミノ酸合成が維持されることが示唆された。
【ミトコンドリアはP5CSを多く含む集団とATP合成酵素を多く含む集団に分離する】
筆者らは、酸化的培養条件下において、P5CSおよびATP合成酵素の構成因子であるATP5Bの細胞内分布を蛍光免疫染色により解析した。その結果、P5CSとATP5Bの局在はほとんど重ならず、互いに独立して分布していた。このことから、P5CSを多く含むミトコンドリア集団とATP5Bを多く含むミトコンドリア集団とが分離して存在することが示唆された。この分離現象は、オルニチンおよびプロリンを含む培地条件下では認められなかった。
次に、これら二つのミトコンドリア集団の超微細構造を電子顕微鏡により観察した。その結果、P5CS含有ミトコンドリアではクリステ構造の消失が認められた。そこで、クリステ形成およびミトコンドリア内膜融合に関与するOPA1をノックアウトしたところ、クリステ構造の消失とともに、グルタミン酸由来のプロリンおよびオルニチン合成の増加が認められた。
さらに、ミトコンドリア外膜融合に関与するMFN1/2をノックアウトすると、ミトコンドリア集団の分離は起こらず、P5CSはフィラメント化できなかった。この条件下では、呼吸活性、TCA回路中間代謝産物量、および細胞増殖活性が低下した一方で、NADH/NAD⁺比の上昇が認められ、プロリン合成は維持されていた。
一方、ミトコンドリア分裂に関与するDRP1をノックアウトすると、肥大化したミトコンドリア内においてP5CSとATP5Bが分離せずに共存していた。この条件下では、OXPHOS活性および細胞増殖活性は維持されていたが、プロリン合成は低下していた。
以上の結果から、ミトコンドリアは融合と分裂を介して、P5CSを多く含む集団とATP合成酵素を多く含む集団とに分離することが示唆される。このようなミトコンドリア集団の機能的分化により、それぞれの集団においてアミノ酸合成またはATP合成が適応的に活性化され、両代謝経路の両立が可能となると考えられる。
【まとめ】
本研究により、P5CSは細胞のエネルギー要求に応じて集簇し、フィラメントを形成する性質を有することが明らかとなった。さらに、ミトコンドリアの融合と分裂を介して、ATP合成酵素を多く含むミトコンドリアとP5CSを多く含むミトコンドリアとが、それぞれ異なる集団として形成・分離されることが示された。
これらのP5CSの性質およびミトコンドリアダイナミクスにより、OXPHOSとプロリン・オルニチンの還元的合成という二つの代謝経路の活性が同時に維持されており、これらの現象は高いエネルギー要求下で顕著に認められた。
ミトコンドリアダイナミクスの役割としては、これまで、細胞内ミトコンドリアの構造や機能の均一性を保つ働きが知られている。本研究はそれに加えて、異なる代謝経路に特化したミトコンドリア集団の形成および維持にミトコンドリアダイナミクスが関与する可能性を示唆している。
このような機能的に異なるミトコンドリア集団の形成が腫瘍内不均一性の一因となる場合、がん治療において、放射線治療に対する抵抗性の形成に寄与する可能性があると考えられる。