Chk1はDNA損傷に応答して、シャペロン依存性オートファジーにより分解制御される
論文標題 | Regulated degradation of Chk1 by chaperone-mediated autophagy in response to DNA damage |
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著者 | Park C, Suh Y, Cuervo AM |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Nat Commun. 6, e6823, 2015 |
キーワード | CMA , オートファジー , Chk1 , NBS1 , DNA損傷 |
選択的オートファジーは細胞内タンパク質量の調節に機能するともに、変性タンパク・細胞内器官の除去によるクオリティーコントロールにも役割を持っている。このようなクオリティーコントロールはゲノム安定性の維持に不可欠で、様々なタイプのDNA損傷の修復機構にも関与すると考えられている。オートファジーにはマクロオートファジー、ミクロオートファジー、シャペロン調節オートファジー (chaperone-mediated autophagy: CMA)の主要な経路があるが、DNA損傷応答におけるCMAの役割は報告されていなかったことから、本論文ではCMAに着目している。
CMAはCMAターゲッティングモチーフ(KFERQ-like motif)をもつタンパク質がシャペロンタンパクhsp70によって認識・結合され、細胞質からライソゾーマルCMAレセプターLAMP-2A(lysosome-associated membrane protein type 2A; L2A)へ輸送されて分解されるものである。本論文ではL2Aノックアウトマウス由来繊維芽細胞を用いて、CMA機能不全におけるDNA損傷応答への影響を検討している。
トポイソメラーゼII阻害剤エトポシドはDNA二重鎖切断損傷を誘導して細胞死を起こすが、L2A(-)細胞は正常細胞と比べて、エトポシド感受性が著しく高まっており、MMS、シスプラチン、カンプトテシン、ヒドロキシウレアの種々のDNA損傷剤への感受性も高まっていた。さらにL2A(-)細胞でのエトポシド処理はDSBマーカーであるγH2AXを増加させ、中性コメットでのテイルも長くなっており、この傾向はγ線照射でも同様であり、L2A(-)細胞ではDSB損傷が増大していると考えられた。次に、エトポシド処理でCMAの活性が上昇するかを検討すると、正常マウス繊維芽細胞でCMA依存性のタンパク分解が増加しており、CMA特異的な蛍光ラベル基質を導入した細胞をエトポシド処理すると、蛍光基質の分解が促進された。マウス個体にエトポシド注入を行った後に取り出した肝臓でもCMA活性は上昇していた。このような上昇はMMS、シスプラチン、カンプトテシン、ヒドロキシウレア処理でも見られた。さらにマウス細胞ではエトポシド処理でL2A mRNA、タンパクレベルで誘導される。L2A発現ベクターを導入して過剰発現させた場合、CMA活性化剤AR7処理でCMA経路を活性化すると、エトポシドによるγH2AX誘導が低下することから、CMAのDNA損傷に伴い活性化し、DNA損傷の低減に役割を果たすと考えられ、DNA損傷応答においてCMA機構が機能することが示唆された。
さらにL2A(-)細胞においてDNA損傷応答を検討すると、ノックアウト細胞ではエトポシド処理により誘導されたγH2AXが長く残存しており、G2期での細胞蓄積が見られた。チェックポイントタンパクChk1はDNA損傷により一時的にリン酸化誘導され、時間経過とともに減少し、Chk1タンパク量も低下していくが、L2A(-)細胞ではリン酸化の誘導が長く維持されるとともに、タンパクレベルも長く維持されていた。また、正常細胞では核に局在するChk1はエトポシド処理で消失したが、L2A(-)細胞ではエトポシド処理後も核内に存在することが、ウエスタンブロット法、免疫蛍光染色法で確認された。正常細胞でエトポシド処理後、Chk1が細胞質でCMA因子LAMP1と共局在すること、CMA依存ライソゾーム画分にChk1が存在することがウエスタンブロット法で確認でき、CMAへのターゲットタンパクの輸送に関わるHsp70とChk1の結合も免疫沈降法で確認された。このようなエトポシド処理後の核内Chk1の減少は核外輸送を伴うと予想されたが、核外輸送の阻害剤レプトマイシンB処理を行うと、細胞質でのLAMP1とChk1の共局在が低下し、核内Chk1が増加した。Chk1はCMAターゲッティングモチーフをもつが、モチーフに変異を導入すると、この変異型Chk1はエトポシド処理後、細胞質、核でともに分解抑制され、正常型Chk1でさえも過剰発現すると、エトポシド誘導γH2AXが増大しており、DNA損傷発生後、リン酸化活性化したChk2がCMA機構で除かれることが発生したDNA損傷の除去に重要であり、CMA機能不全による核内Chk1の維持はDNA損傷蓄積・DNA修復異常につながると示唆された。
CMA不全によるDNA修復異常のメカニズムを明らかにするために、様々なDNA修復関連タンパクの発現を検討したが、MRN複合体タンパク質(MRE11/RAD50/NBS1)がL2A(-)細胞のエトポシド処理後に減少するとともに、残存するMRNはリン酸化が上昇していることが見いだされた。また、γ線照射でも同様な現象が見られた。このようなL2A(-)細胞でのMRNのリン酸化はカフェイン処理、ATR阻害剤処理で消失したことから、ATRにより行われていると示唆された。L2A(-)細胞でエトポシド処理時に免疫沈降法で確認すると、MRN複合体形成は正常細胞と同様に観察され、複合体形成不全がMRNのリン酸化・タンパク不安定化に関与するのではかった。また、野生型Chk1、変異型Chk1を過剰発現させると、エトポシド処理に伴うMRE11リン酸化・減少が増強されることから、CMA不全細胞ではATR-Chk1経路でMRNのリン酸化が起こり、タンパク質を不安定化していると考えられた。
このように、本論文はシャペロン調節オートファジーCMAがDNA損傷応答に機能することを初めて示した論文であった。DNA損傷が発生するとCMAが活性化され、hsp70がATR依存的にリン酸化活性化したChk1を核外輸送してCMA依存リボソームで分解してChk1が活性化したチェックポイントの解除に関わり、一方、CMA不全による核内での活性化Chk1の維持はMRNの不安定化、DNA修復異常につながることを示しており、興味深い内容の論文であった。しかし、MRNタンパク質の分解制御はいまだ明らかでは無く、MRNのリン酸化とタンパク質分解との関係にはさらなる研究が必要と思われる。チェックポイントの解除にはChk1などリン酸化により活性化された酵素が脱リン酸化されることによって行われるとこれまで多くは、考えられてきたが、本論文ではリン酸化状態のまま核外輸送して、CMA機構での分解による不活性化でチェックポイントが解除されうること示唆しており、他のチェックポイント制御酵素の不活性にも、同様にタンパク質分解系が関わっているかについても、興味深いところであり、今後の研究の進展が望まれる。