日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

書評:放射線計測ハンドブック第4版

論文標題 Radiation Detection and Measurement
著者 Glenn F. Knoll 翻訳:神野 郁夫、木村 逸郎、阪井 英次
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
2013年 発刊 オーム社
キーワード

 放射線計測に携わる全ての研究者・技術者にとって必携の解説書「放射線計測ハンドブック」の第4版である。原著は,長年にわたって放射線計測分野の研究・教育で活躍されている米国ミシガン大学名誉教授Glenn F. Knoll博士が書いた「Radiation Detection and Measurement」であり,1979年に初版が出版され,ほぼ10年毎に改訂版が出版されている。今回の改訂では,放射線医療診断などの目的で開発された新しいシンチレータや,10年前には考えられなかった高速デジタルパルス処理技術など,近年,進捗の著しい分野に関して特に重点的に加筆されている。

本書は,全20章で構成され,放射線検出の基礎原理から各シンチレータの具体的な特性まで,幅広い内容が含まれている。第1~3章では,放射線の基本的な特性や誤差の評価方法など,放射線計測の基礎について丁寧に解説されている。第4章では,放射線検出器の一般的性質について説明があり,その後,第5~13章では,様々な能動型検出器の特性を詳細に紹介している。具体的には,第5~7章は電離箱・比例計数管・GM計数管などガス検出器,第8~10章はシンチレーション検出器,第11~13章は半導体検出器の特性が記載されている。第14,15章では,放射線計測の中でも特に難しいとされる中性子の検出法について詳しい解説があり,第16~18章では,従来のNIM・CAMAC機器や最新のデジタル機器を用いたパルス処理技術に関する説明がある。第19章は,TLDや固体飛跡検出器など受動型検出器の特性について紹介している。第20章では,バックグランド低減方法など,具体的な検出器の使用方法に関する解説がある。各章の終わりには,演習問題や参考文献なども充実しており,大学の講義目的での利用にも適している。

本書は,放射線計測分野の全体を幅広く網羅した解説書としては唯一のものであり,放射線計測に携わる数多くの研究者にとっては既に普遍的名著としてなじみ深いハンドブックである。本改訂により最新技術に関する解説が加えられ,座右の書としてその有用性は更に高まるであろう。また,本書は,訳者らが十分に原文の意味を理解してから翻訳していると思われ,他の洋書専門書の翻訳版に散見される理解しづらい日本語訳などはほとんどなく,あたかも原著が日本語であるかのような感覚で平易に読み進めることができる。したがって,放射線生物学・医学物理などを専門とする研究者にとっては,放射線医療診断や粒子線治療の普及により放射線計測学の重要性が高まっている今,その入門書として最適であると思われる。幅広い分野の研究者にぜひ購入していただきたい一冊である。