E3ユビキチンリガーゼであるRAD18が、FANCD2とFANCIのモノユビキチン化とクロマチンへのローディングを制御する
論文標題 | The E3 ubiquitin ligase RAD18 regulates ubiquitylation and chromatin loading of FANCD2 and FANCI. |
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著者 | Reaper PM, Griffiths MR, Long JM, Charrier JD, MacCormick S, Charlton PA,Golec JMC, Pollard JR. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
blood 117, 5078-5087, 2011 |
キーワード | FANCD2 , FANCI , RAD18 , ファンコニ貧血 , クロマチン |
ファンコニ貧血(Fanconi anemia: FA)は、1972年にスイスの小児科医Guido Fanconiによって最初に報告された、常染色体(一部、X染色体)劣性遺伝性疾患である。これまでに、15種類のFA原因遺伝子が同定されていて、それらはDNA損傷修復に関与するとされている。FA遺伝子群は、グループ1( FAコア複合体):8種類のFA原因遺伝子と2種類の関連遺伝子がサブユニットとして含まれる”、グループ2(ID複合体):FANCD2とパラログのFANCIが会合して複合体を形成し、FAコア複合体のサブユニットの一つであるFANCLのE3リガーゼ活性によってモノユビキチン化されてクロマチン分画へ移行する、グループ3:上記グループ1,2以外の5種類のFA原因遺伝子が、FA経路の下流、もしくは、この経路に独立して機能する、という3つのグループに分けられる(参考文献1)。FA経路によるDNA修復には、モノユビキチン化されたID複合体がクロマチン上へ移行することが必須であるとされているものの、そのメカニズムの詳細に関しては、まだ一定の見解は得られていない。
一方、E3ユビキチンリガーゼであるRAD18は、E2ユビキチン結合酵素のRAD6とともに、PCNAをモノユビキチン化してDNAポリメラーゼスイッチングを起こし、損傷乗り越え複製において重要な役割を果たすことで知られている。最近になって、相同組み換え修復におけるRAD18の機能が注目されるようになると、同じく相同組み換え修復に関与するFA経路との関連性を示唆する報告も出てきた(参考文献2)。そこで、今回紹介する論文の筆者、Kupferらは、RAD18がどのようにFA経路に関わるのか、解明を試みた。彼らは、まず、MMC処理の有無に関わらず、RAD18とFANCD2が結合することを確認した。そこで、RAD18がFAND2のモノユビキチン化に関与するのではないかと予想し、RAD18をsiRNAノックダウン、またはノックアウトしたヒト細胞にDNA架橋剤を投与すると、FANCD2及びFANCIのモノユビキチン化が遅延した。以前、PCNAとFANCD2との結合がFANCD2のモノユビキチン化に必要であるという報告(参考文献3)があったが、筆者らは、PCNAをノックダウンした細胞でもFANCD2がモノユビキチン化されることを確認し、RAD18は、PCNAを介さない経路でFANCD2とFANCIのモノユビキチン化を促進すると考えている。さらに、MMC未処理のRAD18ノックアウト細胞のクロマチン分画では、FANCD2とFANCIは検出されず、FANCLも含めたFAコア複合体のサブユニットは存在していた。これらの結果から、Kupferらは、RAD18が、PCNAとFAコア複合体の制御とは関係なく、FANCD2とFANCIをクロマチンにローディングするという説をとっている。しかし、この見解は、最近報告されたKarnitzらの論文とは大きく矛盾する。Karnitzらは、RAD18によってモノユビキチン化されたPCNAがFANCLと結合し、活性化されたFANCLがFANCD2をモノユビキチン化するというモデルを提示した(参考文献4)。つまり、KupferらとKarnitzらは、RAD18がFANCD2のモノユビキチン化に関与するという点では一致しているが、PCNAとFAコア複合体の関与については相反する立場にある。
今回のKupferらの論文では、その立場を主張するには、いささか根拠として弱い部分も認められる。たとえば、筆者らは、RAD18ノックアウト細胞でMMC処理後のクロマチン分画にFANCD2とFANCIを認めたため、RAD18のID複合体のクロマチン移行における役割をMMC未処理のS期に限られると解釈しているが、空ベクターを戻したRAD18ノックアウト細胞では、MMC処理前後ともFANCD2とFANCIのクロマチンローディングが観察されず、あまり釈然としない。彼らは、MMC処理後にもRAD18とFANCD2が結合することを確認していたし、RAD18ノックダウンもしくはノックアウトした細胞でも、MMC処理後の時間経過を追うことで、FANCD2とFANCIのモノユビキチン化が遅延されるのを示していた。ゆえに、これらの一連の結果が、その解釈に完全には合致しないのではないかという疑問が残る。実験結果を統一的にどう解釈しているのか、筆者らのコメントがほしいところである。
ともあれ、Kupherらは、さらなる結果をここに示している。RAD18は、ユビキチンとの結合に必要なZNFドメイン、PCNAのモノユビキチン化に必須なSAPドメイン、E3ライゲース活性に関わるRINGドメイン、を持っている。筆者らは、これらのいずれがFA経路の活性化に重要なのかを調べるために、ZNFまたはSAPドメインの欠損変異体と、RINGドメインに一カ所の変異を持つ変異体とを、それぞれRAD18ノックアウト細胞に遺伝子導入した細胞を作製した。すると、MMC未処理下で、RINGドメイン変異体を発現する細胞においてのみ、RAD18とFAND2の結合を認めず、また、クロマチン分画にFANCD2は存在しなかった。
以上より、筆者らは、RAD18のE3ライゲース活性が、PCNAの活性化経路とは独立して、S期におけるFANCD2のモノユビキチン化とクロマチンローディングに重要な役割を果たすという結論を導いた。最近、FA経路とRAD18の関係について解析した論文がいくつも出版されている。上述したように、RAD18がFA経路の上流で働くメカニズムに関しては意見が分かれており、今回の論文の見解を強く裏付けるには、たとえばin vitroでの再現性が必要であろうし、他のグループの結果とすりあわせての更なる検討もされるべきであろう。ちなみに、私の研究室では、FANCIのリン酸化がFANCD2のモノユビキチン化の分子スイッチであることを見出しており(参考文献5)、リン酸化キナーゼがFA経路の活性化の上流に関わっていると考えている。私達の分野において、FA経路の活性化メカニズムの解明は最もホットな課題の一つであり、様々な仮説が提唱されているがゆえ、慎重かつ活発な議論が望まれるであろう。
<参考文献>
1. 茂地 智子、高田 穣 ; G.I. Research (2010) 18-2:19-25
2. L. Ting et al.; DNA repair (2010) 9:1241-1248
3. N. G. Howlett et al; J. Biol. Cell (2009)284: 42, 28935-28942
4. L. Geng et al; J. Cell Biol. (2011)191: 2, 249-257
5. M. Ishiai et al; Nat Struct Mol Biol.(2008)15(11):1138-46