MMSETはH4K20メチル化を介して53BP1のDNA損傷部位への集積を調節する
論文標題 | MMSET regulates histone H4K20 methylation and 53BP1 accumulation at DNA damage sites. |
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著者 | Pei H, Zhang L, Luo K, Qin Y, Chesi M, Fei F, Bergsagel PL, Wang L, You Z, Lou Z. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Nature, 470,124-128, 2011 |
キーワード | MMSET , ヒストンメチル化 , 53BP1 , DNA損傷 , H4 |
53BP1 (p53-Binding Protein 1)はDNA損傷応答に関わる因子として広く知られている。その機能としては、細胞周期チェックポイント、ヘテロクロマチンにおけるDNA損傷修復、相同組換えを抑制することによる修復経路の選択などに必要であると考えられている(参考論文1-3)。53BP1は他のDNA修復因子、細胞周期チェックポイント因子に見られるように、電離放射線(IR)照射後に核内フォーカスを形成し、DNA二重鎖切断(DSB)部位に蓄積することが報告されている。しかしながらその損傷部位へのリクルート機構については永く不明であった。
Huyenらによって最初に53BP1のDSB部位への集積メカニズムが提唱されたのは2004年である。この報告では53BP1の持つ2つのTudor domeinがメチル化されたヒストンH3K79に特異的に結合するというものであった(参考論文4)。しかし、2006年のBotuyanらがCell誌に報告した論文では、53BP1のTudor domainに結合するヒストンはメチル化H3K79ではなく、メチル化H4K20であることを示している(参考論文5)。また現在までの他の報告からも、53BP1はヒストンH4K20のジメチル化(H4K20me2)を認識してDSB部位へ蓄積すると考えられる。さらに近年ヒストンH2AX/H2Aのポリユビキチン化が53BP1の集積に必要であることが報告されているが、H4K20メチル化との関係は依然として未解明のままである(参考論文6)。注目すべきは、このメチル化はウエスタンブロットで確認する限りではIR照射により増加しない点である。そこで、IR照射によって生じたDSBがクロマチン構造を破壊し、露出したH4K20me2を53BP1が認識するというモデルが考えられてきた(参考論文4)。
今回Nature誌に掲載されたこの論文では、クロマチン免疫沈降法(ChIP)を用いることにより、DSB部位でのヒストンH4K20のメチル化が増加することを報告している。このDSB領域での特異的なH4K20のメチル化はMMSET(別名WHSC1,NSD2)と呼ばれるSETドメインをもつメチルトランスフェラーゼによるものであり、ChIPアッセイまたは免疫染色により、MMSET自身もDSB部位へ蓄積することが示されている。実際に、MMSETをノックダウンした細胞ではDSB部位でのH4K20me2とH4K20me3が低下し、53BP1がDSB部位へ蓄積出来ず、その結果と一致するように放射線に対し感受性を示す。さらにこのMMSETによるメチル化は、53BP1のリクルートに必要であるとされているMDC1,H2AXに依存して起こることが分かった。興味深いことに、RNF8をノックダウンした細胞ではこれまでの報告と一致して53BP1のDSB部位への蓄積が阻害されるが、MMSETの局在やH4K20のメチル化には全く影響を与えなかった。これらの結果は、H4K20のメチル化の経路とRNF8によるヒストンH2AX/H2Aのポリユビキチン化経路は独立しており、しかもこの両方の経路が機能しないと53BP1が正常にDSB部位に蓄積出来ないことを示している。 また、MMSETはDNA損傷依存的にATMにより102番目のセリンがリン酸化されることが示されている。このMMSETのリン酸化はMDC1のBRCTドメインと結合し、MMSETの損傷部位への局在を調節している。MMSETのリン酸化部位の変異体(S102A)はDSB部位へリクルートされず、結果としてH4K20のメチル化の増加が確認されない。このことから、MMSETがATMによりリン酸化されMDC1と結合しDSB部位に維持されることが、H4K20のメチル化に重要であると考えられる。さらにMDC1はIR照射後にオリゴマーを形成することが確認された。この結果は、DSB部位で複数のMDC1がオリゴマーを形成し、ひとつのMDC1はリン酸化されたH2AXと結合し、また別のMDC1はリン酸化されたMMSETと結合するというモデルを示す根拠となっている。
以上の結果より、MDC1を中心とした2つの53BP1の集積のメカニズムが明らかとなった。ひとつは以前の報告にあるような、MDC1-RNF8-RNF168によるH2AX/H2Aのポリユビキチン化の経路であり、この経路がどのように53BP1の集積に関わるのかは依然として未解明のままである。もうひとつの経路は今回新たに明らかとなった、MDC1-MMSET-H4K20me2-53BP1の経路である。この両経路が正常に機能することが53BP1のDSB部位への蓄積に必須である。また別のグループによる最新の研究結果では、53BP1のDSB部位への集積がHP1α(Heterochromatin Protein 1)とCAF-1(Chromatin Assembly Factor1)のサブユニットであるp150CAF-1により調節されていることが示されている(参考論文7)。しかしHP1α,p150CAF-1がどのように前述の2つの経路と関連するのかは示されておらず、今後の研究により解明されることを期待したい。
<参考論文>
1. FitzGerald JE. Et al., 53BP1: function and mechanisms of focal recruitment. Biochem. Soc. Trans. (2009)
2. Noon AT. Et al., 53BP1-dependent robust localized KAP-1 phosphorylation is essential for heterochromatic DNA double-strand break repair. Nat. Cell. Biol. (2010)
3. Bunting SF et al., 53BP1 inhibits homologous recombination in Brca1-deficient cells by blocking resection of DNA breaks. Cell (2010)
4. Huyen Y. et al., Methylated lysine 79 of histone H3 targets 53BP1 to DNA double-strand breaks. Nature (2004)
5. Botuyan et al., Structural basis for the methylation state-specific recognition of histone H4-K20 by 53BP1 and Crb2 in DNA repair. Cell (2006)
6. Kolas NK. et al., Orchestration of the DNA-damage response by the RNF8 ubiquitin ligase. Science (2007)
7. Baldeyron C. et al., HP1alpha recruitment to DNA damage by p150CAF-1 promotes homologous recombination repair. J. Cell Biol. (2011)