日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

NBS1 によるRAD18 の損傷部位への集積と損傷乗り越えDNA 合成機構の制御

論文標題 NBS1 Recruits RAD18 via a RAD6-like Domain and Regulates Pol eta-Dependent Translesion DNA Synthesis.
著者 Yanagihara H, Kobayashi J, Tateishi S, Kato A, Matsuura S, Tauchi H, Yamada K, Takezawa J, Sugasawa K, Masutani C, Hanaoka F, Weemaes CM, Mori T, Zou L, Komatsu K.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Mol Cell. 43, 788-797, 2011
キーワード NBS1 , RAD18 , PCNA , 損傷乗り越えDNA合成 , TLS

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 DNAは絶えず損傷を受けているため、生物は損傷が生じるとDNA修復、細胞周期チェックポイント及びDNA上に損傷を残したままDNA複製を続行する損傷乗り越えDNA合成 (Translesion DNA Synthesis: TLS) 機構により細胞を制御する。今回、DNA修復タンパク質NBS1がTLSの開始に重要な役割をもっていることが示され、NBS1の新しい機能を発見した。
 ナイミーヘン染色体不安定症候群 (Nijmegen breakage syndrome: NBS) は放射線感受性、染色体不安定性、高発がん性を呈する遺伝病である。NBSの原因遺伝子NBS1は放射線照射後の細胞周期チェックポイントやDNA修復で機能する。NBS患者細胞は放射線の他、CPT、MMC、MMS、HUなどに感受性を示すことが知られている。NBS患者細胞及びNBS1欠損マウス細胞を用いて解析したところ、これらの感受性に加え、紫外線感受性が確認された。さらに、siRNAを用いて解析したところ、NBS1ノックダウン細胞でも紫外線感受性が確認され、NBS1の発現量依存的に感受性の増加がみられた。これらのことからNBS1タンパク質の発現量低下により紫外線感受性が亢進することが示された。次に細胞核の局所に紫外線損傷を誘発し、DNA損傷特異的抗体と修復タンパクNBS1抗体で二重免疫蛍光染色した結果、紫外線損傷部位へのNBS1の集積を検出した。さらに紫外線照射後、特に複製期の細胞においてNBS1フォーカス形成が観察された。これらのことから紫外線照射により複製期に生じたDNA損傷応答に対するNBS1の関与が示唆された。
 NBS1の紫外線損傷修復機構における機能を検討するために、以後NBS1欠損マウス細胞を用いて実験を行った結果、紫外線照射後のヌクレオチド除去修復能に異常はみられなかった。しかし、複製後修復能を調べるため蔗糖密度勾配遠心法を用いて複製反応産物の伸長を測定したところ、NBS1欠損マウス細胞ではDNA伸長がみられず、複製後修復能が欠如していることが示された。さらに、NBS1欠損マウス細胞ではRAD18やPolηの核内フォーカス形成が抑制され、PCNAのユビキチン化の低下が確認された。同様の表現型はNBS1ノックダウン細胞でもみられた。紫外線照射後NBS1ノックダウン細胞ではPolηノックダウン細胞と同程度の突然変異頻度の増加がみられた。これらの結果からNBS1はRAD18を紫外線損傷部位へリクルートすることにより、PCNAのモノユビキチン化を介したPolηによるTLSに関与していることが明らかとなった。
 次に、NBS1とRAD18の相互作用を免疫沈降法を用いて検討した。その結果、大腸菌から精製したNBS1とRAD18組換えタンパク質同士が直接結合し、細胞内では特に紫外線照射後に核内での結合が観察された。NBS1のRAD18結合部位を同定した後、その結合部位を欠失させた変異体を作製したところ、RAD18結合部位欠失細胞では、RAD18及びPolηの核内フォーカス形成に異常を示し、PCNAモノユビキチン化の低下、紫外線感受性が確認された。これらの結果からNBS1とRAD18の結合がTLSの開始に必要であることが示唆された。NBS1の集積はRAD18非依存的であることから、NBS1がRAD18の損傷部位への集積を制御していると考えられる。さらに、免疫沈降法を用いた結果、NBS1とRAD6はRAD18の同一領域に競合して結合することが示され、アミノ酸配列解析の結果NBS1及びRAD6の各RAD18結合領域間で構造的な類似性を見いだした。RAD18は二量体を形成していることが知られているため、NBS1-RAD18-RAD18-RAD6複合体を形成しTLSに関与していることが示唆された。また、in vitro の実験でRAD6ペプチドを過剰添加させた結果、NBS1とRAD18の結合が阻害されたことから、紫外線損傷修復初期ではNBS1はRAD18の損傷部位への集積に必要であり、その後PCNAのユビキチン化のためRAD6と置換する可能性も考えられる。
 以上本論文は、NBS1はチェックポイント制御やDNA修復だけでなく、TLSの制御という新たな役割も担っていることを示した。