DNA複製とチェックポイント機構に必須であるTreslin/Ticrrの発見
論文標題 | A vertebrate gene, ticrr, is an essential checkpoint and replication regulator. |
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著者 | Sansam CL, Cruz NM, Danielian PS, Amsterdam A, Lau ML, Hopkins N, Lees JA. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Genes Dev. 24, 183-194, 2010. |
キーワード | DNA複製 , 細胞周期チェックポイント , Treslin , TopBP1 , Sld3 |
DNA複製がS期に一度だけ起こるための機構はライセンス化と呼ばれる。DNA複製においては、まず、DNA複製起点にORC複合体(Origin Recognition Complex)が結合し、その部位にMCM2-7複合体が、Cdc6、Cdt1によって誘導されpre-RC (pre-Replication Complex) が形成される(ライセンス化)。その後、Cdc45、GINS、Sld2 (ヒトではRECQL4が相当すると言われている)、Sld3、Dpb11 (ヒトではTopBP1)などが、CDK (cyclin-dependent kinase)、DDK (Dbf4-dependent kinase) の二つのキナーゼ依存的に集積しpre-IC (pre-Initiation Complex) が形成され、DNA複製が始まる。DNA複製ストレスや、DNA ダメージに対しては、複製チェックポイント、S/Mチェックポイント、G2/Mチェックポイントの3つの機構が用意されている。複製チェックポイントはS期でのDNA複製ストレスに応答して、S期後期での複製開始を抑制する。S/Mチェックポイントは不完全なDNA複製、G2/M チェックポイントはG2期でDNA損傷が残存している場合にM期への進入を抑制する。この際、pre-ICの形成に必須である酵母Dpb11(ヒトではTopBP1)は、複製、S/M、G2/Mの3つのチェックポイントに必須であることが示されており、細胞周期の安定な進行に大きく寄与している。
今回紹介するSansamらの論文では、TopBP1と結合し、DNA複製、S/M、G2/M チェックポイントに必須であるTicrr (TopBP1-interacting, checkpoint, and replication regulator) を同定した。具体的な方法としては、335個のそれぞれ違う遺伝子に変異を持つヘテロ接合型のゼブラフィッシュを掛け合わせ、ホモ接合型になった胚に、IR (ionizing radiation) を照射し、ヒストンH3 Ser10のリン酸化をM期進入の指標として、G2/M チェックポイントが掛からない変異体を2種類得た。その両方で、Ticrrの遺伝子領域に塩基の挿入があり、発現レベルが低下していることが確認された。このことから、TicrrはG2/M チェックポイントに必須であることが示唆された。
さらに、受精後40時間のTicrrホモ接合型の胚では、S期での細胞周期の蓄積と同時に、prometaphaseでの蓄積やanaphase bridgeが観察された。一方、受精後24時間の胚では、S期での細胞周期の遅延が観察されたが、M期での欠損表現型は観察されなかった。これらの結果から、Ticrrホモ接合型の胚では、初めにS期の遅延が起こり、DNA複製が不完全であるにもかかわらずM期に侵入していることを示している。このことは、TicrrはDNA複製と、S/M チェックポイント機構に必須であることを示唆している。
DNA チェックポイント機構に関しては、Kumagaiらの論文で、siRNAによってTreslin/Ticrrをノックダウンすると、γ-H2AXが増加する一方で、Chk1のリン酸化が起きない事が示されており、Treslin/TicrrはDNA チェックポイント機構の上流で機能しそうである。また、DNA複製に関しては、Ticrrホモ接合型の胚で、pre-RCを構成するMCM2 7はクロマチンに誘導されるが、pre-ICの構成成分であるGINSサブユニットのPsf1が誘導されないことから、Ticrrはpre-ICの形成に必須であることも示された。加えて、In vitroの実験系において、ヒトTICRRは、クロマチンに結合することや、TopBP1と会合し、その結合にはTopBP1のN末端にあるBRCTドメイン1、2が必要であることが示された。また、TICRRは色々な種の間でアミノ酸配列の相同性が低いにもかかわらず、ヒトTICRRとゼブラフィッシュ Ticrrはそれぞれヒト TopBP1と結合することも示された。このことに関しては、SanchezPulidoらの論文で、TICRRは色々な種の間で保存されたドメインを持っていることが示されているので、TICRRはそのドメインを介してTopBP1と結合しているのではないかと推察される。
酵母Sld3はpre-ICの形成に必須であり、その際、CDKによってリン酸化を受けDpb11(TopBP1)のN末端のBRCT ドメインと結合する。今回同定されたTicrrは、Sld3と同様にpre-ICの形成に必要であり、さらに、TopBP1のN末端のBRCT ドメインと結合することから、Ticrrもリン酸化を受けてTopBP1と結合するのではないかと考えられたが、Sansamらの論文ではCDKによるリン酸化の有無がTicrrとTopBP1の結合に影響しないとされた。このことに関しては、Kumagaiらの論文において、TicrrとTopBP1の結合にはCDKによるリン酸化が必要であると示されているので、議論の余地がある。
このように、Ticrr/Treslinは、TopBP1と会合しし、複製、S/M、G2/M チェックポイント機構および、DNA複製におけるpre-ICの形成に必須であるタンパク質として同定された。しかし、CDKによってリン酸化を受け、それがTopBP1との結合を促すのかが不明であるので、酵母 Sld3のホモログとは言いきれない点がまだ残っている。しかしながら、細胞周期の安定な進行に必須であることは間違いないなく、今後の解析が急務である。
<参考文献>
1. A vertebrate gene, ticrr, is an essential checkpoint and replication regulator. Sansam CL, Cruz NM, Danielian PS, Amsterdam A, Lau ML, Hopkins N, Lees JA. Genes Dev. 2010 Jan 15;24(2):183-94.
2.Treslin collaborates with TopBP1 in triggering the initiation of DNA replication. Kumagai A, Shevchenko A, Shevchenko A, Dunphy WG. Cell. 2010 Feb 5;140(3):349-59. Epub 2010 Jan 28.
3.Homology explains the functional similarities of Treslin/Ticrr and Sld3. Sanchez-Pulido L, Diffley JF, Ponting CP. Curr Biol. 2010 Jun 22;20(12):R509-10.