ヌクレオソームの代謝回転を測定するための新しい実験系の確立
論文標題 | Genome-wide kinetics of nucleosome turnover determined by metablic labeling of histones. |
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著者 | Deal RB, Henikoff JG, Henikoff S. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Science, 328, 1161-1164, 2010 |
キーワード | CATCH-IT , ヌクレオソーム , ヒストン , 転写 , 代謝回転 |
我々はGFPやRFPといったタンパク質をタグとして用いることで目的のタンパク質がどこに局在するのかを確かめることができる。この手法は、肉眼でタンパク質を観察することが出来ない我々にとっては非常に有効な手段であるが、一方で不都合な部分もある。生物学的な実験を行う際には、生体内の環境により近い条件を採用するべきであるが、目的タンパク質へのタグ付けは人為的な操作であるため、タグ付きタンパク質が生体内で予測できない毒性を示す可能性もあるからだ。今回紹介した論文は、そのような人為的操作を最小限に抑えた状態でゲノムワイドにヌクレオソームのアセンブリー・ディスアセンブリー(代謝回転)を計測できるシステムを構築したという論文である。著者のHenikoffらはこのシステムをCATCH-ITと名付けている。
著者らは、今までに様々な方法を用いてヌクレオソームの代謝回転を調べてきたが、ヒストンにタグを付けていることと、遺伝子の発現を誘導する際に時間差が出来てしまうことなどの人為的操作による不都合を懸念していた。そこで彼らは、ヒストンにタグをつける代わりに、メチオニンの類似体であるアジドホモアラニン(Azidohomoalanine 以下Ahaと示す)を短時間細胞内に取り込ませ、Ahaと結合するビオチンを用いて新規に取り込まれたヒストンを含むヌクレオソームを、より生体内の環境に近い状態で単離することに成功した。ビオチン化されたモノヌクレオソームの単離後、stringentな洗浄によってH3/H4テトラマー以外の蛋白質を取り除いている。彼らは、この方法によるヒストンの単離をクロマチン免疫沈降(ChIP)に応用し、マイクロアレイ法と組み合わせることで、生体に即した環境でヒストンが結合するDNA領域をヌクレオソーム単位にまで細分化し、特定した(ChIP on ChIP)。さらに著者らは、Ahaの処理後、一定の時間をおいてメチオニンを添加し、タンパク質へのAhaの取り込みを抑制することで、タンパク質の代謝回転率を導くことが可能であることも示している(パルス・チェイス実験)。これらの手法を統合し、メチオニンの添加前後の染色体内のヒストン量を調べることで、ヒストンが染色体上のどこのヌクレオソームに、どのような時間間隔で取り込まれ、放出されるのかを検出した。
実験の結果、遺伝子の転写が活性化されている領域とエピジェネティックな制御を受けている領域を比較すると、遺伝子の転写が活発な領域においては、ヒストンの代謝回転も活発であることが明らかになった。また、複製起点ではH3が、遺伝子の転写が行われている領域ではH3のバリアントであるH3.3がヌクレオソームに取り込まれることが先行研究で明らかになっていたが(文献2)、今回のCATCH-ITによっても同様の結果が得られた。
著者らは、CATCH-ITの実験結果とH3.3を含むヌクレオソームでは遺伝子の複製を開始できない可能性があるという報告(文献1)から、複製起点はDNAの配列に依存するのではなく、ヌクレオソームに取り込まれるヒストンタンパク質によって決定されるのではないかと結論づけている。
参考文献
1) The histone variant H3.3 marks active chromatin by replication-independent nucleosome assembly.Kami Ahmad and Steven Henikoff. 2002 Molecular Cell Vol9 1191-12-June 2002
2) Drosophila GAGA factor directs histone H3.3 replacement that prevents the heterochromatine spreading. Takahiro Nakayama et al.2007 vol21 552-561 Genes Dev.