脱SUMO化酵素SENP6は、RPA70の脱SUMO-2/3化を介して相同組換えを抑制する
論文標題 | Regulation of DNA repair through deSUMOylation and SUMOylation of replication protein A complex. |
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著者 | Dou H, Huang C, Singh M, Carpenter PB, Yeh ETH. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Mol. Cell, 39, 333-345, 2010 |
キーワード | SUMO化 , 相同組換え , SENP6 , RPA70 , DNA複製 |
SUMO化は、ユビキチンに良く似たSUMOファミリータンパク質を、様々な標的タンパク質に共有結合する翻訳後修飾の一つである。脊椎動物では、SUMOファミリーに属するものは、SUMO-1と、互いに良く似たSUMO-2/3(アミノ酸で95%一致)があるが、出芽酵母では、SMT-3の一つしかない。SUMO化を触媒する反応系もユビキチン化によく似ており、SUMO特異的なE1, E2, E3と呼ばれる因子によってSUMO化が促進され、SENP(出芽酵母ではUlp)と呼ばれる脱SUMO化酵素によって負にも制御を受ける。ユビキチン化は、典型的には、標的タンパク質をプロテアソームによる分解へと導くが、それ以外にも、細胞内輸送、シグナル伝達、DNA修復などプロテアソーム非依存的な機能があることが知られている。一方、SUMO化は、一般にタンパク質分解には直接関与せず、これまでに様々な機能があることが示されてきた(注: SUMO化依存的ユビキチンリガーゼによるタンパク質分解の例もある)。出芽酵母のsmt-3変異は、lethalであることから、SUMO化は生存に必須な役割があるはずだが、これまでに解析されたSUMO化の現象はいずれも表現型が限定的であり、SUMO化の決定的な役割はなお不明である。
ユビキチン化は、E1/E2/E3による修飾促進系が主な制御機構であって、脱ユビキチン化の役割は補助的である。これに対して、SUMO化では、脱SUMO化による負の制御の方が、E1/E2/E3による正の制御に比べて、より支配的であると考えられるようになってきている。このため、近年、特に脱SUMO化の制御機構の解析が進んでいる。脊椎動物の脱SUMO化酵素は、SENP1/2/3/5/6/7 (4は欠番)の6種類がある。SENP1/2は、SUMO-1/2/3のいずれも基質とするのに対して、SENP3/4/6/7は、SUMO-2/3への特異性が高い。
この論文では、SENP6の機能解析を進めるために、SENP6をbaitとした酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行い、SENP6の結合因子として、一本鎖DNA結合タンパク質RPA70を同定した。RPA70は、RPA32, RPA14と共にヘテロ3量体を形成し、主にRPA70による一本鎖DNA結合を介して、様々なDNA代謝に関与する。著者らは、まず、SENP6とRPA70は、細胞周期のS期に結合すること、複製の指標となるPCNAと共局在することを見いだした。これらのことから、SENP6とRPA70の相互作用は、S期の進行に伴う機能を持っていることが推測された。また、内在性のRPA70が、SUMO-2/3の基質であり、SENP6は、RPA70の脱SUMO-2/3化を促進することを示した。では、SENP6が、S期にRPA70と結合し、RPA70の脱SUMO-2/3化を促進する意義はなんであろうか?著者らは、siRNAをもちいてSENP6の発現抑制をすると、1)S期の進行が遅れ(図S3Aは、左右同一なので作図ミスと思われる)、SUMO-2/3の核内での点状集積(フォーカス形成)が見られること、2)DNA損傷の指標であるリン酸化H2AX(ヒストンH2Aのバリアント)、及び、相同組換え因子であるRAD51のフォーカス形成が見られること、また、3)これらのフォーカスとSUMO-2/3の局在がよく一致することを見いだした。これらのことから、SENP6は、S期において、RPA70の脱SUMO-2/3化状態を維持し、そのことによって、損傷のない正常な鋳型DNAの複製を促進すると考えられた。また、一方で、正常な複製が阻害される状況では、SENP6がRPA70から速やかに解離し、RPA70のSUMO-2/3化を介した相同組換えが誘導されると考えられた。著者らは、さらに、HeLa細胞を様々なDNA損傷剤で処理し、その後のRPA70のSUMO-2/3化を観察した。その結果、放射線やトポイソメラーゼI阻害剤であるカンプトテシンによって、RPA70のSUMO-2/3化が誘導されることを示した。放射線やカンプトテシンによる複製阻害は、共に相同組換えによって修復されることから、この結果は、RPA70のSUMO-2/3化は何らかの形で相同組換えを促進するという考えと一致する。最後に、SUMO-2/3化されたRPA70が相同組換えを促進する分子的な説明として、1)SUMO-2がRAD51と直接相互作用すること、2)RPA70のSUMO-2化は、RAD51の活性の指標であるATPの加水分解活性を促進すること、3)SUMO-2/3化される部位を変異したRPA70は、野生型のRPA70に比べ、RAD51との共局在率が低下することを示した。以上のことから、著者らは、以下の様なモデルを立てている(図7)。すなわち、SENP6は、相同組換えが必要な部位に結合しているRPA複合体から解離することで、RPA70のSUMO-2/3化を促し、SUMO-2/3とRAD51との結合によるRAD51の局所への集積、ひいては相同組換えを促進する。
これからの課題はいろいろあろうが、最大の課題は、モデル図にもあるように、RPA70のSUMO-2/3化を促進するSUMOリガーゼ(E3)はなにか、という点だ。この点に関しては、discussion中にも言及されているように、2009末に、Galantyらが、SUMOリガーゼPIAS1のsiRNAによる発現抑制が、microirradition部位へのSUMO-2/3の集積を抑制する(2009 Nature, 462, 935-941)ことを報告している。従って、PIAS1が有力な候補と考えられるが、PIAS1であるならば、PIAS1とSENP6が独立にSUMO-2/3の集積を制御しているのか、あるいは上下関係があるのか、などの点が興味深い。また、上述の様に、RPA70のSUMO-2/3化は放射線、カンプトテシンで誘導されるが、discussion中に、紫外線、hydroxyurea (HU)では誘導されない旨が記されている。放射線、カンプトテシンによる損傷に起因される変化の内の、具体的になにがtriggerになって、SENP6のRPA70からの解離が引き起こされるのかの解明も必要であろう。