Rad6 DDT経路は、複製フォークとは独立にS期以外でも機能している
論文標題 | The RAD6 DNA Damage Tolerance Pathway Operates Uncoupled from the Replication Fork and Is Functional Beyond S Phase. |
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著者 | Karras GI, Jentsch S. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Cell. 2010 Apr 16;141(2):255-67. |
キーワード | DNA損傷 , 複製フォーク , Rad6 , PCNA , Rad18 |
DNA損傷が修復されずに細胞周期のS期に入った場合、DNA複製時に染色体の分解、ゲノムの不安定性といった重大な問題を引き起こす事が知られている。これらのような問題に対処するため、すべての生物はDNAポリメラーゼが停止する様なDNA損傷下での細胞の生存を可能にするDNA Damage Tolerance(DDT)経路を保持している。DDT経路は、鋳型鎖乗り換え(template switching)により機能するError-free DDTと、Translation DNA synthesis (TLS)ポリメラーゼをリクルートする事で機能するError-prone DDT経路の、主に2種類の機構からなることがわかっている。それらの機構はPCNAのユビキチン化によって選択され、PCNAがUbc13やMms2、Rad5といったポリユビキチン化酵素によってポリユビキチン化されるとError-free DDT経路が機能し、PCNAがモノユビキチン化されるとError-prone DDT経路が機能する事が判明している。この損傷トレランス機構DDTは、損傷を乗り越えて複製を行うために機能するため、今までの研究においてS期でのみ機能すると考えられてきた。しかし、昨今の研究の結果、複製フォークとは異なる部分でTLSが機能する事が示唆されている。(Edmunds et al., 2008;Jansen et al., 2009a; Jansen et al., 2009b; Lopes et al.,2006;Waters and Walker, 2006)
そこで、筆者等は細胞周期のどの時期にRad6 DDT経路が機能するかを調べた。著者らはpolymeraseδのサブユニットであるpol32を欠損させた細胞が低温下でDDT経路を活性化させるという表現型を持つ点に着目した。その表現型を用いて、PCNAのユビキチン化はDNA複製と独立して誘導されること、またDNA損傷下でDNA複製と独立してDDT経路が機能する事を示した。次に筆者等はG2/M期特異的な発現をするサイクリン因子Clb2のプロモーター下にTLS polymeraseサブユニットRev3、Rad30を挿入したコンストラクトを作成し、DDT経路のTLSの機構がS期後(G2/M期)に起る事を明らかにした。次にerror-free DDT経路に関与する因子をスクリーニングし、RecQヘリカーゼであるSgs1遺伝子を単離した。そしてSgs1遺伝子がG2/M期に機能すること、error-free DDT経路がG2/M期に機能しDNA修復を行っている事を明らかにした。最後に筆者等は、TLS経路とerror-free DDT経路の上流に位置するPCNAのユビキチン化がG2期に起るかどうかを検証した。PCNAのユビキチン化酵素Rad18、Rad5、Ubc13の発現をG2期に制限させても、それらの酵素は充分に機能し、DDT経路を活性化させている事を明らかにした。以上の結果により、Rad6 DDT経路全体がDNAの複製とは独立して、S期外(G2/M期)で機能すると結論した。最後に筆者等は、真核生物はこのような複製フォークと独立した損傷トレランス機構を進化させる事で、損傷の修復に時間的猶予が生みだすことができ、その複製時の損傷をより望ましい修復経路で直すための選択に利用されているのではないかと考察している。
また、この論文と同時期に、Rad6 DDT経路がDNA複製とは空間的・時間的に分離して機能していると結論した論文がNature誌にも発表されている(Daigaku Y et al,2010)
<参考文献>
1.C.E. Edmunds, L.J. Simpson and J.E. Sale, PCNA ubiquitination and REV1 define temporally distinct mechanisms for controlling translesion synthesis in the avian cell line DT40, Mol. Cell 30 (2008), pp. 519-529
2.J.G. Jansen, A. Tsaalbi-Shtylik, G. Hendriks, H. Gali, A. Hendel, F. Johansson, K. Erixon, Z. Livneh, L.H. Mullenders, L. Haracska and N. de Wind, Separate domains of Rev1 mediate two modes of DNA damage bypass in mammalian cells, Mol. Cell. Biol. 29 (2009), pp. 3113-3123.
3.J.G. Jansen, A. Tsaalbi-Shtylik, G. Hendriks, J. Verspuy, H. Gali, L. Haracska and N. de Wind, Mammalian polymerase zeta is essential for post-replication repair of UV-induced DNA lesions, DNA Repair (Amst.) 8 (2009), pp. 1444-1451.
4.M. Lopes, M. Foiani and J.M. Sogo, Multiple mechanisms control chromosome integrity after replication fork uncoupling and restart at irreparable UV lesions, Mol. Cell 21 (2006), pp. 15-27.
5.L.S. Waters and G.C. Walker, The critical mutagenic translesion DNA polymerase Rev1 is highly expressed during G(2)/M phase rather than S phase, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103 (2006), pp. 8971-8976.
6. Daigaku Y, Davies AA, Ulrich HD Ubiquitin-dependent DNA damage bypass is separable from genome replication.Nature. 2010 Jun 17;465(7300):951-5