日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

hnRNPUL1のアルギニンメチル化はNBS1との結合とDNA損傷部位へのリクルートメントを制御する

論文標題 Arginine methylation of hnRNPUL1 regulates interaction with NBS1 and recruitment to sites of DNA damage
著者 Gurunathan G, Yu Z, Coulombe Y, Masson JY, Richard S
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Sci Rep. 5,10475, 2015.
キーワード アルギニンメチル化 , DNA損傷 , NBS1 , hnRNPUL1 , PRMT1

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アルギニンメチル化は真核生物ではしばしば起こる一般的な翻訳後修飾であり、DNA損傷応答との関連も報告されてきた。DNA損傷応答におけるアルギニンメチル化の最初の報告はMRE11であり、そのメチル化はMRE11のexonuclease活性の制御に必要であり、メチル化されるアルギニン(RGG/RGモチーフ内)をリジンに置換したマウスは放射線高感受性である。MRE11以外にも53BP1, p53, FEN1, BRCA1, RAD9などもアルギニンメチル化と機能との関係が報告されており、DNA損傷応答におけるアルギニンメチル化の重要性が示唆される。アルギニンメチル化酵素(protein arginine methyltransferases: PRMTs)はヒトにおいては9種類同定されており、そのうちPRMT1はRGG/RGモチーフを好んでメチル化するが、ノックアウトマウスでは耐性致死であることが知られていた。しかし、コンディショナルノックアウトマウスより樹立したMEF細胞でPRMT1をノックアウトすると、自発的DNA損傷が増加し、チェックポイント異常、DNA損傷剤への感受性、染色体不安定性を示し、MRE11, 53BP1, BRCA1のRGG/RGモチーフをメチル化でき、DNA損傷応答におけるPRMT1の重要性が示唆される(参考文献1)。一方、主にヒストンメチル化を通して転写制御に関わるPRMT6のノックアウトマウスは生存可能であり、MEFが早期老化を示し、PRMTはタイプに機能の違いが示唆された。
 近年RNA代謝に関わる因子、RNA helicase やRNA binding proteins (RBP)はDNA損傷応答へも関与が報告されてきている。その中で、RNA結合活性を持つhnRNP (Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein)ファミリーの一つ、hnRNPUL1はMRE11/RAD50/NBS1 (MRN)複合体と結合するタンパク質として同定された因子である(参考文献2)。hnRNPUL1は転写阻害下でlaser micro-irradiationによるDNA損傷部位にリクルートされるが、そのリクルートにはhnRNPUL1のC末でのNBS1との結合が必要であった。hnRNPUL1をsiRNAでもノックダウンしてもATM依存的なリン酸化は正常であるが、ATRに依存したRPAのリン酸化が低下し、resectionも抑制されており、hnRNPUL1はDNA損傷部位での末端resection、それに続くATRの活性化と相同組換え制御に重要であると示唆されていた。一方、hnRNPUL1とNBS1との結合がどのように制御されているかは未解明であった。本論文ではNBS1との結合に必要なhnRNPUL1のC末端領域にはPRMT1によってメチル化されうるRGG/RGモチーフがあることから、hnRNPUL1とNBS1の結合の制御にはアルギニンメチル化が関与しているのではないかと考え、研究が行われた。
 最初にhnRNPUL1のアルギニンメチル化の有無を調べるために、FLAG-tagged hnRNPUL1発現U2OS細胞からFLAG-hnRNPUL1を精製し、質量分析計で検討すると、C末端寄りの領域で10個のアルギニンのメチル化が確認され、そのうち4個はRGG/RGモチーフ内であった。この10個について周辺を含むペプチドをGSTとつなぎ、in vitroでRPMT1によってメチル化させると、RG/RGGモチーフ内にある618, 620, 645, 656番目のアルギニンのメチル化が確認された。次にin vivoでメチル化されているかをHEK293細胞から免疫沈降した後にメチル化特異的抗体でウエスタンブロット行うとメチル化バンドが検出され、PRMT1をsiRNAでノックダウンすると、メチル化が消失した。次に正常型、あるいは同定されたアルギニン部位をリジンに置換した変異型hnRNPUL1をHEK293細胞に発現させ、タグであるFLAGの抗体で免疫沈降行うと、正常型ではPRMT1と結合するが、リジン変異体は結合できず、このことからもPRMT1がhnRNPUL1をメチル化することが示唆される。
 次にアルギニンメチル化とNBS1との結合との関係を、同様に正常型及びリジン変異型hnRNPUL1発現細胞を用いて免疫沈降を行うと、以前の報告通り正常型はNBS1との結合が確認されたが、変異型ではNBS1は共沈しなかった。また、PRMT1をsiRNAノックダウンしてhnRNPUL1とNBS1との結合が著しく低下することが観察され、hnRNPUL1のアルギニンメチル化はNBS1との結合に重要であるといえる。以前の論文で転写が正常に起こっている状態ではhnRNPUL1はDNA損傷部位から排除され、阻害剤で転写抑制した状態ではDNA損傷部位に集結することが報告されていたので、アルギニンメチル化がこのような応答に必要であるかを、laser micro-irradiationで検討すると、転写阻害しない場合のDNA損傷部位からの排除は正常型、リジン変異型hnRNPUL1に差が無かったが、転写阻害時のDNA損傷部位への集結はリジン変異体では著しく低下していた。以上の結果から、PRMT1によるhnRNPUL1のRGG/RGモチーフのメチル化はNBS1(MRN複合体)との結合、それに続くDNA損傷部位への集結を制御していることが示唆され、アルギニンメチル化制御がDSB末端resection, ATR活性化、HR制御にも関与する可能性を示唆する興味深い論文であった。一方で、hnRNPUL1のアルギニンメチル化はDNA損傷により誘発されないともいっており、また、転写阻害時にのみDNA損傷部位へリクルートされることから、DNA損傷応答時のhnRNPUL1の機能制御・役割にはまだ未解明な部分が多いと考えられ、今後の研究の進展を期待したい。

<参考文献>
1. Auclair Y, Richard S. The role of arginine methylation in the DNA damage response. DNA Repair 12, 459-465, 2013.
2. Polo SE, Blackford AN, Chapman JR, Baskcomb L, Gravel S, Rusch A, Thomas A, Blundred R, Smith P, Kzhyshkowska J, Dobner T, Taylor AM, Turnell AS, Stewart GS, Grand RJ, Jackson SP. Regulation of DNA-end resection by hnRNPU-like proteins promotes DNA double-strand break signaling and repair. Mol Cell. 45, 505-516, 2012.