日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

ヒトとマウスでのDNA二重鎖切断後のATM活性化機構の隔たり

論文標題 Multiple autophosphorylation sites are dispensable for murine ATM activation in vivo
著者 Daniel JA, Pellegrini M, Lee JH, Paull TT, Feigenbaum L and Nussenzweig A
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
J Cell Biol. 183, 777-783, 2008
キーワード DNA損傷 , ATM , 自己リン酸化 , MRN , NBS1

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 ヒト細胞ではDNA二重鎖切断後のATMの活性化にはSer1981の自己リン酸化が必須であり(1)、さらにATMの活性化にSer367、Ser1893の自己リン酸化も関与していることが明らかとなってきた(2)。しかし、マウスの細胞、個体レベルではATMのSer1987(ヒトのSer1981に相当)をAla置換した場合、AT細胞で観察される放射線高感受性、細胞周期チェックポイントの異常、ATMのリン酸化酵素活性の消失、リンパ球の成熟異常は起こらなかった(3)。
 この論文ではヒトのSer367、Ser1893、Ser1981に相当する部位の三重Ala置換マウスを作製し、AT細胞との表現系を検討した。三重Ala置換マウス由来のB細胞に電離放射線を照射するとATMの基質として知られているSMC1、KAP1、p53、Chk2のリン酸化は野生型と同程度誘導された。また、リン酸化ヒストンH3を指標とした電離放射線照射後のG2/Mチェックポイントも三重Ala置換マウス由来のB細胞では正常だった。AT患者とATM欠損マウスで観察されるV(D)J組換えの異常も三重Ala置換マウス由来のリンパ球では観察されなかった。さらに、マウスに電離放射線を全身照射した後に小腸の病理組織を検討した結果、ATM欠損マウスでは重度の上皮陰窩の変性、絨毛の消失が観察されたが、三重Ala置換マウスは野生型と同様に放射線障害からの回復が見られた。
 以上の結果から、マウスにおいてはヒト細胞で確認されている三カ所の自己リン酸化はDNA二重鎖切断後のATMの活性化に必要ない。ATMの自己リン酸化は活性化の結果であり、原因ではない。自己リン酸化が起こる理由としては、DNA二重鎖切断部位にATMが集積し、活性化したATMにより無差別にリン酸化されやすい部位がリン酸化されているだけではないかと筆者らは考察している。また、ATMの活性化に必要なのは損傷クロマチン、MRN複合体またはATMの自己リン酸化以外の翻訳後修飾(Lys3016のアセチル化など)が関与しているのかもしれない。

<参考文献>
(1) Bakkenist BJ and Kastan MB (2003) DNA damage activates ATM through intermolecular autophosphorylation and dimer dissociation. Nature 421, 499-506
(2) Kozlov SV, Graham ME, Peng C, Chen P, Robinson PJ and Lavin MF (2006) Involvement of novel autophosphorylation sites in ATM activation. EMBO J. 25, 3504-3514
(3) Pellegrini M, Celeste A, Difilippantonio S, Guo R, Wang W, Feigenbaum L and Nussenzweig A (2006) Autophosphorylation at serine 1987 is dispensable for murine Atm activation in vivo. Nature 443, 222-225