日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

ポリADPリボース分解酵素ノックダウンによる放射線誘発性mitotic catastropheの亢進

論文標題 Radiation-induced mitotic catastrophe in PARG-deficient cells
著者 Ame JC, Fouquerel E, Gauthier LR, Biard D, Boussin FD, Dantzer F, de Murcia G, Schreiber V.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
J Cell Sci. 122, 1990-2002, 2009.
キーワード ポリADPリボシル化 , DNA損傷 , PARG , スピンドルチェックポイント , 中心体

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 翻訳後修飾反応の一つであるポリADPリボシル化修飾はクロマチン構造の制御,DNA修復、細胞分裂や細胞死に関与することが知られている(Schreiber et al., 2006)。修飾されたポリADPリボース(PAR)を分解するポリADPリボースグリコヒドロラーゼ(PARG)はDNA損傷後の細胞の運命を決定するが、その生理的意義は未だ十分に解明されていない。Ameらは、PARGの欠損が放射線照射時に細胞に及ぼす影響を検討するために、HeLa細胞をベースとした全PARGアイソフォームに対するshRNA安定発現株(PARGND細胞)を構築した。対照細胞として、shRNA配列に2塩基のミスマッチを含むpBD650ベクターを導入したHeLa細胞を使用した。通常、PARはDNA損傷により一過性に蓄積し、PARGにより分解を受けるが、PARGND細胞では非損傷時でのPARの蓄積が認められ、X線照射後もその蓄積は持続した。また、X線照射により生じた一重鎖および二重鎖切断をコメットアッセイにより評価したところ、対照細胞と比較して修復の遅延が認められた。加えて、PARGND細胞は対照細胞と比較して放射線に対し高感受性を示した。PARGND細胞では、照射後のγH2AXのフォーカス残存数の増加、持続的なATMのリン酸化や局所UVレーザー損傷後のXRCC1の局在異常が観察されたことから、DNA損傷修復機構の異常が示唆された。また、6 GyのX線照射48時間後にはPARGND細胞の43 %にG2/M期アレストが生じた(vs. 対照細胞: 30.9 %)。このとき,照射されたPARGND細胞では2個以上の中心体を有する細胞の顕著な増加(52.0 % vs. 対照細胞: 25.3 %)や、多極紡錘体の形成の増加が生じた。さらに、スピンドルチェックポイントタンパク質であるMAD2が照射後も動原体への局在が維持されたままで分裂後期に移行することから、チェックポイント機構の異常が示唆された。最後に、PARGND細胞のX線照射後の細胞死形態を検討したところ、6 GyのX線照射48時間後には死滅した細胞のうち約7割がmitotic catastropheを起こしていることが明らかになった(vs. 対照細胞: 約3割)。以上の結果から、PARGND細胞ではX線照射により過剰な中心体の複製による多極分裂が引き起こされ、mitotic catastropheによる細胞死を誘導することが示唆された。このように、PARGをノックダウンした癌細胞では放射線照射による致死感受性が高まることから、AmeらはPARGをターゲットとした放射線増感剤の可能性を提示している。

<参考文献>
Schreiber, V., Dantzer, F., Ame, J. C. and de Murcia, G. (2006). Poly(ADP-ribose): novel functions for an old molecule. Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 7 , 517-528.