マウスUsp1の不活性化はゲノム不安定性及びファンコニー貧血表現型を引き起こす
論文標題 | Inactivation of murine Usp1 results in genomic instability and a Fanconi anemia phenotype |
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著者 | Kim JM, Parmar K, Huang M, Weinstock DM, Ruit CA, Kutok JL, D'Andrea AD. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Dev Cell, 16, 314-320, 2009 |
キーワード | ファンコニ貧血 , USP1 , 精子形成 , 脱ユビキチン化 , DNA損傷 |
ファンコニー貧血(FA)経路はDNA修復に関与し、正常な細胞のDNA架橋剤に対する抵抗を促進する。また、FA経路は13個のタンパク質(FANCA,B,C,D1,D2,E,F,G,I,J,K,M,N)によって制御されており、そのうちのFA core complex として知られる8個のFAタンパク質群(FANCA,B,C,E,F,G,L,M)は複合体を形成し、E3ユビキチンリガーゼとして、FANCD2とFANCIをモノユビキチン化する。モノユビキチン化されたFANCD2/FANCI複合体は、クロマチンへリクルートされ、DNA修復を促進する。また、最近の研究で、FANCD2/FANCI複合体は、ユビキチン特異的プロテアーゼであるUsp1によって脱ユビキチン化されていることが明らかになった。Usp1はFA遺伝子相補群ではないが、本論文の研究結果より、Usp1ゲノムの欠損はFAタンパク質欠損細胞と同様架橋感受性を示すことがわかった。
本論文で筆者らは、FA修復経路におけるUsp1の役割を検討するために、Usp1欠損マウスを作製した。まず、異なった成長段階におけるUsp1欠損マウスの生存率を調べたところ、出生前ではなく出生後1日から2日で約80%のUsp1欠損マウスが死亡したことからUsp1ゲノムの欠損は胚性致死ではなく出生時の死亡を引き起こすことが確認された。次に、生存していたUsp1欠損マウスについて調べると、Usp1欠損マウスは出生前から成人期において一貫して野生型マウスよりも小さかった。また、USP1欠損雄マウスは精細管が著しく萎縮していて、精原細胞、精母細胞、精細胞などの精子形成細胞を多く欠いており、生殖不能であった。
次に、筆者らはUsp1欠損マウス細胞のDNA架橋剤であるMMCやUV照射に対する応答を分析したところ、Usp1欠損マウスMMCに対しては感受性を高めるが、UV照射に対する感受性は野生型細胞と同程度であることが示された。また、MMC処理をすると、染色体切断や、FA特有の染色体異常であるradial form が増加した。さらにUsp1欠損マウスとFancd2欠損マウスの細胞におけるMMC感受性とIR感受性をコロニーアッセイにより調べたところ、両者共にMMCに対しては高感受性を示し、IRに対しては感受性が低かった。
さらに、Usp1欠損マウスの細胞では、モノユビキチン化Fancd2が生化学的な細胞分画法でクロマチン上に局在していることが確かめられたにも関わらず、免疫染色を行うとフォーカスを形成していないことが分かった。
このように本論文では、Usp1欠損マウスでは、①体が小さい、②受精能の低下、③架橋剤に対して高感受性である、などのFA欠損マウスと共通した表現型を示した。分子生物学的解析によりUsp1による脱ユビキチン化はFancd2のフォーカス形成に必要であり、脱ユビキチン化によりFancd2をクロマチンから遊離することが、DNA修復の完了に重要であることがわかった。しかし、Usp1がFancd2のクロマチンでのフォーカス形成に関わる詳細な機構は明らかにされていない。今後の解明が期待される。
<参考文献>
1.Oestergaard, F. Langevin, H.J. Kuiken, P. Pace, W. Niedzwiedz, L.J. Simpson, M. Ohzeki, M. Takata, J.E. Sale and K.J. Patel, Deubiquitination of FANCD2 is required for DNA crosslink repair, Mol. Cell 28 (2007), pp. 798-809
2. M.A. Cohn, P. Kowal, K. Yang, W. Haas, T.T. Huang, S.P. Gygi and A.D. D'Andrea, A UAF1-containing multisubunit protein complex regulates the Fanconi anemia pathway, Mol. Cell 28 (2007), pp. 786-797.
3. Wong, N. Alon, C. McKerlie, J.R. Huang, M.S. Meyn and M. Buchwald, Targeted disruption of exons 1 to 6 of the Fanconi anemia group A gene leads to growth retardation, strain-specific microphthalmia, meiotic defects and primordial germ cell hypoplasia, Hum. Mol. Genet. 12 (2003), pp. 2063-2076.