アポトーシス細胞による免疫寛容の誘導には、カスパーゼ誘発性活性酸素種によるHigh-Mobility Group Box-1タンパク
論文標題 | Induction of immunological tolerance by apoptotic cells requires caspase-dependent oxidation of high-mobility group box-1 protein |
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著者 | Kazama H, Ricci JE, Herndon JM, Hoppe G, Green DR, Ferguson, TA. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Immunity, 29, 21-32, 2008 |
キーワード | 免疫細胞 , ネクローシス , アポトーシス , HMGB1 , ミトコンドリア |
乳類の免疫系は、2つの異なる細胞死を識別している。ネクローシスでは炎症反応が起き獲得免疫につながる。一方、アポトーシスでは抗炎症反応が起き免疫寛容が促進される。しかし、このアポトーシスによる免疫寛容の誘導機序は明らかにされていない。そこで、本論文の著者らは、アポトーシスによる免疫寛容の誘導機序について、カスパーゼとミトコンドリアの役割を中心に調べた。
まず、カスパーゼが免疫寛容に関与するかを調べるために、アポトーシスを起こした細胞のカスパーゼ活性を阻害したところ、免疫寛容は誘導されず、むしろ免疫反応が刺激された。このことから、カスパーゼ活性が死細胞から放出される何らかの分子を免疫原性から免疫寛容性に変えることがわかった。活性化したカスパーゼはミトコンドリアの膜透過性や呼吸鎖複合体Iのサブユニットの1つであるp75 NDUSF-1の断片化を引き起こし、結果として活性酸素種(ROS)の産生を引き起こすことから、著者らは、アポトーシスによる免疫寛容誘導におけるROSの関与を調べた。アポトーシスを起こしている細胞をROSスカベンジャーであるブチルヒドロキシアニソールで処理したところ、免疫寛容の誘導が阻害された。逆に、ネクローシス細胞を過酸化水素で処理したところ、免疫寛容を誘導した。これらの結果より、アポトーシス細胞による免疫寛容誘導にROSが関与していることが示された。また、免疫寛容に対するp75 NDUSF-1切断の影響を、p75 NDUSF-1が野生型のHeLa細胞(p75wt)と変異体(p75DA:225番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたもので、ここが置換されると、カスパーゼの切断を受けずミトコンドリアが維持される)のHeLa細胞を用いて調べた。UV照射によってアポトーシスを起こしたp75wtのHeLa細胞はROSの産生が起こるとともに免疫寛容性を示し、そしてこの寛容性はカスパーゼの阻害剤によって阻害された。一方で、p75DAのHeLa細胞はアポトーシスを起こすものの、ROSの産生も免疫寛容性も認められなかったことから、カスパーゼによるp75 NDUSF-1の切断から生じるROSが免疫寛容に重要であると考えられた。
次に著者らは、炎症性因子でdanger signalの一つであるHMGB1が免疫寛容に関与するかを検討した。HMGB1はネクローシス細胞から放出され、アポトーシス細胞では放出されないと報告されていたが、本論文ではUV照射でアポトーシスを起こしたHeLa細胞からのHMGB1の産生がp75wtとp75DAのHeLa細胞で観られた。アポトーシスを起こしたp75DAのHeLa細胞の培養上清(p75DAs)には免疫寛容誘導の阻止作用があり、p75wtの培養上清には阻止作用が認められなかった。そして、このp75DAsによる免疫寛容誘導阻止作用はHMGB1の抗体添加により中和され、またp75DAsからHMGB1を除去すると、免疫寛容誘導作用が回復した。以上のことから、死細胞から放出されるHMGB1が免疫応答に重要であり、さらにはROSの産生状態が免疫応答の活性化と寛容に作用していることが明らかになった。
さらにHMGB1について詳細に調べたところ、HMGB1の免疫応答に対する影響はレドックス状態に依存することがわかった。つまり、HMGB1の106番目のシステイン残基が還元されていれば免疫刺激能をもつが、このシステイン残基が酸化されると免疫寛容が生じることが示された。
本論文より、アポトーシス細胞が免疫寛容を誘導するには、カスパーゼが引き起こすミトコンドリア内イベントが免疫寛容の誘導に重要であることが示された。免疫細胞がどのように酸化型HMGB1と非酸化型HMGB1を識別し、それらの違いがどのように免疫反応を調節しているのかは興味深い点である。また、がん治療において、アポトーシスを起こしたがん細胞が免疫寛容を誘導するかどうかは大変興味深い。