日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

iPS細胞樹立におけるp53の役割

論文標題 A p53-Mediated DNA Damage Response Limits Reprogramming to Ensure iPS Cell Genomic Integrity
著者 Marión RM, Strati K, Li H, Murga M, Blanco R, Ortega S, Fernandez-Capetillo O, Serrano M, Blasco MA.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nature 460, 1149-1153, 2009
キーワード iPS , p53 , MEF , 再プログラミング , 幹細胞

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【はじめに】
分化した細胞に3遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4)あるいは4遺伝子(同左とc-Myc)を強制発現させると、その一部は再プログラミングして人工多能性幹細胞(iPS細胞)になる。この技術は、再生医療において拒絶反応の無い移植臓器や組織を作製できる可能性があるが、iPS細胞が癌化するリスクと再プログラミング効率の低さが問題となる。著者らは、以前、テロメラーゼ欠損マウス第3世代の胎仔線維芽細胞(G3 Terc - / - MEF)は、テロメアが短いため、iPS細胞を樹立できないことを示し(文献1, 2)、DNA損傷をもつ細胞の再プログラミングに障壁が存在する可能性を示唆した。本論文では、p53を介したDNA損傷応答と再プログラミング効率の関係を調べている。

【p53によるDNA損傷応答はiPS細胞樹立の障壁となる】
iPS細胞樹立にDNA損傷が及ぼす影響を明らかにするため、多様なDNA損傷をもつ細胞の再プログラミング効率を調べた。G3 Terc - / - MEF の再プログラミング効率は、正常マウスの胎仔線維芽細胞(WT MEF)と比べて10倍低かった(Fig.1bc)。また、WT MEFに放射線や紫外線を照射すると、再プログラミング効率が減少した(Fig.1f)。さらに、53BP1あるいはATMを欠損したMEFでは、WT MEFと比べて、再プログラミング効率が低かった(Fig.3fg)。このように、uncappedなテロメア、外因性のDNA損傷、DNA修復系の不全は、いずれも再プログラミング効率を低下させることがわかった。
 次に、p53を介したDNA損傷応答の役割を明らかにするため、p53欠損細胞の再プログラミング効率を調べた。p53 - / - MEFおよびG3 Terc - / - p53 - / - MEFの再プログラミング効率は、WT MEFと比べてそれぞれ4倍および6倍高かった(Fig.1ac)。また、p53をノックダウンしたヒト胎児線維芽細胞では、ノックダウンしていない細胞と比べて、再プログラミング効率が10倍に増加した(Fig.1de)。さらに、放射線あるいは紫外線を照射したWT MEFにおいて、p53をノックダウンあるいはBcl2を過剰発現すると、再プログラミング効率は非照射細胞と同程度まで回復した(Fig.1f)。このように、p53-Bcl2によるDNA損傷応答は、傷ついた細胞の再プログラミングを抑制することがわかった。一方、あきらかなDNA損傷をもたない細胞でも、p53を欠損することで再プログラミング効率が増加することから、DNA損傷だけでなく再プログラミング過程そのものもp53応答を導くと考えられる。

【再プログラミング中にp53依存性のアポトーシスが誘導される】
iPS細胞樹立の過程にp53が関与している証拠を見つけるため、再プログラミング中のアポトーシス頻度を測定した。WT MEFとG3 Terc - / - MEFでは、それぞれ10%と40%の頻度でアポトーシスが生じており(Fig.2abc)、テロメアが短い細胞では再プログラミング効率が低いことを裏付けた。また、p53 - / - MEFとG3 Terc - / - p53 - / - MEFでは、アポトーシスはほとんど生じず(Fig.2abc)、p53欠損細胞ではDNA損傷に依らず再プログラミング効率が高い結果を支持した。さらに、WT MEFとG3 Terc - / - MEFではp53 - / - MEFおよびG3 Terc - / - p53 - / - MEFと比べて、p53とp21タンパク質が増加していることを確認した(Fig.2de)。以上の結果から、再プログラミング中に、p53依存性のアポトーシスが生じることがわかった。

【p53欠損細胞ではDNA損傷応答が持続的に活性化する】
ここまでの結果から、p53欠損細胞は、DNA損傷が残ったままiPS細胞になる可能性が考えられた。そこで、再プログラミング中の細胞と樹立したiPS細胞において、DNA損傷応答を調べた。その結果、p53 - / - MEFおよびG3 Terc - / - p53 - / - MEFではWT MEFおよびG3 Terc - / - MEFと比べて、g-H2AXあるいは53BP1フォーカスをもつ細胞の割合、g-H2AXが核全体に広がっている細胞の割合が高いことがわかった(Fig.3abd)。また、G3 Terc - / - p53 - / - MEFでは、g-H2AXとテロメアタンパク質(Trf1)のフォーカスがしばしば共在し、uncappedなテロメアがDNA損傷として認識されていることが確認された(Fig.3c)。さらに、p53 - / - MEFおよびG3 Terc - / - p53 - / - MEFではWT MEFおよびG3 Terc - / - MEFと比べて、ATMのリン酸化が亢進していた(Fig.3e)。このように、再プログラミング中のp53欠損細胞と樹立したiPS細胞では、DNA損傷応答が持続的に活性化されることがわかった。

【p53欠損細胞から樹立したiPS細胞は高頻度で染色体異常を伴う】
次に、WT MEF、p53 - / - MEF、G3 Terc - / - MEFおよびG3 Terc - / - p53 - / - MEFから樹立したiPS細胞において、染色体異常頻度を測定した。その結果、p53 - / - MEF、G3 Terc - / - MEFおよびG3 Terc - / - p53 - / - MEFから樹立したiPS細胞では、WT MEFから樹立したiPS細胞と比べて、染色体末端結合および染色体断片頻度が増加していた(Fig.4abc)。また、G3 Terc - / - MEFおよびG3 Terc - / - p53 - / - MEFから樹立したiPS細胞では、テロメアシグナルの無い染色体末端が高頻度で認められた(Fig.4d)。以上の結果から、p53欠損細胞から樹立したiPS細胞は、高頻度で染色体異常を伴うことがわかった。

【まとめ】
Marionらの実験結果は、p53が細胞の再プログラミングにおける障壁となることを明確に示す。この障壁は、何らかの形でDNA損傷をもつ細胞において、さらに強く発揮される。iPS細胞を再生医療に応用するという観点において、p53は、DNA損傷をもつ不適切な細胞がiPS細胞になってしまわないよう、アポトーシスにより除去する重要な役割をもつことがわかった。本論文が掲載されたNature誌の当該号では、他4報(文献3-6)でも、再プログラミングの機序に関する最新知見が報告されているので、参考にされたい。

<参考文献>
1. Marion, R.M. et al. (2009) Telomeres acquire embryonic stem cell characteristics in induced pluripotent stem cells. Cell Stem Cell 4: 141-154.
2. Davy, P. and Allsopp, R. (2009) Balancing out the ends during iPSC nuclear reprogramming. Cell Stem Cell 4: 95-96.
3. Hong, H. et al. (2009) Suppression of induced pluripotent stem cell generation by the p53-p21 pathway. Nature 460, 1132-1135.
4. Li, H. et al. (2009) The Ink4/Arf locus is a barrier for iPS cell reprogramming. Nature 460, 1136-1139.
5. Kawamura, T. et al. (2009) Linking the p53 tumour suppressor pathway to somatic cell reprogramming. Nature 460, 1141-1144.
6. Utikal, J. et al. (2009) Immortalization eliminates a roadblock during cellular reprogramming into iPS cells. Nature 460, 1145-1148.