血中の酸化ストレス関連指標は組織中のレドックス状態をどの程度反映するか?
論文標題 | Blood reflects tissue oxidative stress depending on biomarker and tissue studied |
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著者 | Veskoukis AS1, Nikolaidis MG, Kyparos A, Kouretas D. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Free Radic Biol Med.47, 1371-1374, 2009. |
キーワード | 酸化ストレス , レドックス , 血液 , カタラーゼ |
酸化ストレス関連指標は生体のレドックス状態を評価する手段として広く用いられている。ヒトを対象とした酸化ストレス関連研究の多くは血液をサンプルとしているが,現在のところ,組織のレドックス状態を正確に知るには組織生検しかない。著者らは侵襲的な組織生検より,負担の少ない血中の酸化ストレス関連指標に着目して組織のレドックス状態を正確に知る方が重要であると考えた。多くの酸化ストレス関連の文献調査により,酸化ストレスに伴い生じる血中と組織中の酸化ストレス関連指標の変動に相関性が高い可能性を見出した。
この仮説を証明するため,本研究では酸化ストレスに伴い生じる骨格筋・心臓・肝臓中の酸化ストレス関連指標の変動と血中のそれの相関性について検討した。すなわち,以下の8つの酸化ストレス関連指標に着目し,血中と組織中の間におけるそれぞれの相関性について調べた。
1.キサンチンオキシダーゼ(XO)
2.チオバルビツール酸反応物質(TBARS)
3.タンパク質カルボニル(PC)
4.還元型グルタチオン(GSH)
5.酸化型グルタチオン(GSSG)
6.カタラーゼ
7.総抗酸化機能(TAC)
8.GSH/GSSG
ラットに,①XO阻害剤であるアロプリノール(50mg/kg)を腹腔内投与し,その2.5および7.5時間後に,②水浸拘束負荷直後および5時間後にそれぞれ屠殺し,血液,骨格筋,心臓,肝臓の酸化ストレス関連指標について調べた。その結果,以下のことがわかった。
1.XOの場合,血中に対し,骨格筋中との間には相関性がなかったが,心臓中と肝臓中のそれぞれの間では相関性が高かった(それぞれの相関係数:rs=0.753-0.964,rs=0.755-0.902)。
2.TBARSの場合,XOの場合と同様に血中に対し,骨格筋中には相関性がなかったが,心臓中と肝臓中それぞれでは相関性が高かった(rs=0.705-1.000,rs=0.656-1.000)。
(1). PCの場合,血中に対し,肝臓中には相関がなかったが,骨格筋中と心臓中それぞれでは相関性が高かった(rs=0.652-1.000,rs=0.656-0.964)。
(2). GSHの場合,PCの場合と同様に血中に対し,肝臓中には相関がなかったが,骨格筋中と心臓中それぞれでは相関性が高かった(rs=0.693-1.000,rs=0.656-1.000)。
(3). GSSGの場合,血中に対し,骨格筋中,心臓中,肝臓中のいずれの間においても相関性が高かった(rs=0.656-0.874,rs=0.742-0.981,rs=0.646-0.855)。
6.カタラーゼの場合,PCの場合と同様に血中に対し,肝臓中には相関がなかったが,骨格筋中と心臓中それぞれでは相関性が高かった(rs=0.745-1.000,rs=0.656-1.000)。
1. TACとGSH/GSSGの場合,いずれも血中に対し,全ての組織との間において相関性がなかった。
以上の結果より,例えば,血中のPC,GSH,GSSG,カタラーゼの酸化ストレス関連指標を調べることにより,骨格筋中のレドックス状態を知ることができると結論づけている。通常,酸化障害は局所で生じることを考慮すると,血中の酸化ストレス関連指標を調べることにより各組織のレドックス状態をより正確に知ることができる方法を確立することは重要である。しかし,本研究で検討した組織は骨格筋,心臓,肝臓のみであり,今後,同様に他の組織でのレドックス状態も評価できれば,より有効な手法になるだろう。