MTA1の安定性調節機構と放射線応答への関与
論文標題 | E3 ubiquitin ligase COP1 regulates the stability and functions of MTA1 |
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著者 | Li DQ, Ohshiro K, Reddy SD, Pakala SB, Lee MH, Zhang Y, Rayala SK, Kumar R. |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Proc Natl Acad Sci USA, 106, 17493-17498, 2009 |
キーワード | MTA1 , がん , 放射線 , COP1 , 感受性 |
はじめに
NuRD(nucleosome remodeling and histone deacetylation)複合体の構成因子であるMTA1(metastasis-associated protein 1)は、様々なヒトのがんで高発現しており、腫瘍の浸潤と転移への関与が知られているが、安定性の調節機構や放射線応答への関与は不明であった。RINGフィンガードメインをもつCOP1(constitutive photomorphogenesis protein 1)は、E3ユビキチン(Ub)-タンパク質リガーゼとしてp53の安定化に寄与し、電離放射線照射後はATM依存的なCOP1のS387リン酸化を介した迅速な自己分解によりp53を安定化させるとの報告(本コーナー06-06参照)をもとに、本論文で著者らはMTA1とCOP1の関連性を探った。
結果1. MTA1とCOP1はフィードバックループを形成している
Fig.1では、K182とK626がUb化されることでMTA1はプロテアソームにより分解されることを示した。Fig.2では、COP1が、MTA1をUb化しプロテアソームによる分解を介して、MTA1の安定性を調節することを示した。Fig.3では、MTA1が、p53とMdm2に依存せず、COP1の自己Ub化による分解を促進することを示した。
以上の結果から、MTA1とCOP1は相互の安定性を制御するフィードバックループを形成していることが明らかにされた。しかし、MTA1とCOP1は直接結合しなかったことから、両者の結合を介する因子の解明が待たれる。
結果2. MTA1は放射線照射後に蓄積し、細胞の生存に関わる
Fig.4では、MTA1はmRNAレベルでは変化せず翻訳後修飾により半減期が延長することで放射線(線質は無記載)の線量と照射後の経過時間に依存して蓄積すること、COP1は減少することを示した。さらに、放射線照射後、ATM依存的なCOP1の分解によってMTA1が安定化することを示した。
Fig.5では、放射線照射後のMTA1の蓄積は、p300によるK626アセチル化MTA1の増加と、MTA1とPol IIの相互作用の増強、標的クロマチン(BCAS3遺伝子)へのMTA1/PolII複合体のリクルートの促進、BCAS3のプロモーター活性化と発現増加を伴うことを示した。MTA1は転写の共制御因子として共活性化因子複合体と共抑制因子複合体の双方に存在するが、MTA1とHDAC2との相互作用は変化しなかったため、放射線はMTA1の転写共活性化機能を強めることがわかった。
Fig.6では、コロニー形成法によってMEFの生存率を解析し、MTA1ノックアウト(KO)は野生型よりも放射線高感受性を呈し、KOの放射線高感受性はMTA1の再導入により部分的に相補されることを示した。また、野生型に比べてKOでは、H2AXのS139リン酸化とフォーカス形成が遅延することを示した。
以上の結果から、放射線はMTA1の安定化により機能を修飾し、照射後の生存に関わることがわかった。上述のデータはヒト由来培養細胞(U2OS, A549, HEK293)を用いて得られたが、全身照射したマウスの乳腺・皮膚・胸腺でもMTA1の蓄積が確認された。その他の部位について記載はないが、個体レベルでの更なる解明が待たれる。
まとめと展望
本研究によって、MTA1の安定性調節機構と放射線応答への関与が初めて明らかにされた。MTA1を高発現するがんの患者は良好な生存が得られないことから、MTA1が放射線治療の新規標的となる可能性があり、本研究の知見は興味深い。本論文では、照射後30分と1時間のデータのみで、遅延的なH2AXリン酸化がKOで放射線感受性が増強される原因と考えられているようであるが、野生型とKOでのリン酸化H2AXは時間差があるもののレベルに大差はないように紹介者には見える。更なる機序解明のために、1時間以降の時間動態を調べた上で、遅延的H2AXリン酸化の機序と放射線感受性への関連性の追求を期待する。その解明は、新たな放射線増感剤への開発へ繋がると思われる。