日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

プロアポトーシス蛋白質の阻害とmTORシグナリングを介するがん治療のためのオートファジー

論文標題 Autophagy for cancer therapy through inhibition of pro-apoptotic proteins and mammalian target of rapamaycin signaling
著者 Kim KW, Mutter RW, Cao C, Albert JM, Freeman M, Hallahan DE, Lu B.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
J Biol Chem. 281, 36883-36890, 2006.
キーワード オートファジー , mTOR , アポトーシス , PTEN , Bax

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 オートファジー(自食作用あるいは自己貪食)が癌治療の分野でも注目されている。オートファジーは、アポトーシスが不完全な時、ラパマイシン(mTOR阻害剤)によって誘導される、上向き調節の代替細胞死経路である。本来、飢餓に応答した生物の生存戦略と考えられてきたが、飢餓の栄養素確保以外に多様な役割を担っていることが判明してきた。また、オートファジーはプロテアソームがユビキチン化された標的蛋白質を一分子ごとに選択的に分解するのに対して、オートファゴソームという一過性オルガネラ空間で、リソソーム酵素で分解する蛋白質のバルクの分解系である。細胞を構成する蛋白質など高分子は、一定時間で能動的に分解されており、合成と分解のバランスで生命は成り立っている。このため、最近ではオートファジーが多くの疾患発症に関係する可能性が示されている。
 ここで紹介する論文の著者らは、新規のmTOR阻害剤(Rad001)の有無、またBax/Bakの有無の条件で、放射線誘発されたオートファジー(自食作用)を検討している。2つの同遺伝子型細胞系、野生型(WT)とBax/Bakダブルノックアウトマウス(DKO)由来胚線維芽細胞および腫瘍細胞株(MDA-MB-231乳癌細胞株、H460肺癌細胞株)が、この研究に使用された。放射線(0~6 Gy)照射を受けたBax/BakDKO細胞では、Akt/mTORシグナリングの減少とプロオートファジータンパク質ATG5-ATG12 複合体とBeclin-1の著名な増加を認めた。これらの分子レベルでの変化は、結果として細胞をオートファジーに向かわせた。Bax/BakDKO細胞は放射線誘発アポトーシスを殆ど起こさなかったが、WT細胞より放射線誘発オートファジーについては高感受性であった。 また細胞のオートファジーとBax/BakDKO細胞における放射線増感効果は、Rad001によってさらに強化された。一方、オートファジーの阻害剤である3-メチルアデニンはBax/BakDKO細胞を放射線抵抗性にしたのに対して、ATG5とBeclin-1の過剰発現はWT細胞およびDKO細胞の両方を放射線感受性にし、ATG5とBeclin-1のsiRNA処理は放射線抵抗性にした。放射線増感のこの新しい概念を癌のモデル細胞で調べるため、MDA-MB-231乳癌細胞株、H460肺癌細胞株を両siRNAで処理すると放射線誘発オートファジーを誘発し、放射線増感効果を示した。そして、それはRad001によってさらに強化された。これはプロアポトーシスのタンパク質の抑制とオートファジーの誘導が癌細胞を治療に対して高感受性にすることを示した最初の報告である。治療としてこの新しい経路を目標とすることは、癌患者のために有意な利益をもたらすものであろう。
 本論文の筆者らは同時期に、mTOR(mammalian target of rapamycin)あるいはアポトーシス経路の阻害がPTEN欠失前立腺癌細胞のオートファジー誘発し、放射線増感を引き起こすこと(文献1)を報告しており、両論文で用いられたRad001は注目に値する新規放射線増感剤である。尚、Rad001はmTOR阻害剤であり、別名はEverolimus, Novaltis Pharmaceut.の製品である。

<関連文献>
1. Cao, C., Subhawong T., Albert J.M., Kim K.W., Geng, L., Sekhar, K.R., Gii, Y.J., and Lu, B.. Inhibition of mmmalian target of rapamycin or apoptotic pathway induces autophagy and radiosensitizes PTEN null prostate cancer cells.. Cancer Res. 66, 10040-10047 (2006).